初心者が退職給付会計業務をWEBで学ぶ方法-Pmasの歩き方-

Pmasをご覧の方々の中には、新年度を迎えて新たに退職給付会計を担当することになった方も多いのではないでしょうか。今ではWEB上で多くの情報が提供されており、退職給付会計のような複雑な分野でも無料で学ぶことができます。Pmasでも解説やコラム、無料のダウンロード資料を豊富にご用意しております。
このコラムでは、初心者がこれから退職給付会計の業務を学ぶにあたって、どこから始め、どの資料やページを参照すればよいのか、Pmasのコンテンツを利用して道標をご提示してみたいと思います。なお、原則法に基づく退職給付会計の業務を想定した説明となっていますので、ご留意ください。
まずは退職給付会計業務の全体像を知る
全体像を知ることは自分がこれから学ぶ範囲を把握し、今どこを学んでいるのか立ち位置を知る助けとなります。まずはPmasから無料でダウンロードができる『退職給付債務計算の実務上のポイント』に目を通しましょう。この資料では、退職給付会計の「概要」と「実務フロー」に関して、担当者が押さえておくべきポイントがまとめられています。この時点で内容のすべてを理解する必要はありません。業務の範囲を知ることを目標にしましょう。
【資料ダウンロード】 退職給付債務計算の実務上のポイント
自社で適用すべき会計処理を知る
一口に退職給付会計といっても、制度によって適用される会計処理が異なります。自社の退職金制度の構成とそれぞれで適用している会計処理を確認しましょう。退職金制度は、退職金規程や企業年金規約で確認することができます。退職金規程には、会社から直接支払われる退職金以外に、中小企業退職金共済制度などに加入していることが記載されている場合もあるため、注意が必要です。
会計処理は採用している制度が確定拠出制度と確定給付制度のどちらであるかによって大きく異なり、例外的な処理や簡便な処理も一部で認められています。制度ごとに、「退職給付債務を認識しているか」「退職給付債務は原則的な方法で計算しているか」を確認するとよいでしょう。本コラムでは原則法で退職給付債務を計算している前提で解説していきます。
退職給付債務の理解を深める
退職給付債務は専門家による確認が必要なほど複雑であり、詳細を理解するには時間がかかるため、イメージ図や簡単な例を通じて正しいイメージを持つことを目指しましょう。正しいイメージは、計算前提を変更したときや、制度変更や大量退職など特殊なイベントにおける退職給付債務の変動を理解する上で役立ちます。
一度読んでわからなくても、他のテーマを学んだ後に戻ってくると理解できることもあるので、多少わからないことがあっても立ち止まらずに進むことをお勧めします。なお、期間帰属方法ごとに退職給付債務の計算方法が解説されていることも多いので、事前に自社で採用している期間帰属方法を確認しておきましょう。
【解説】 退職給付債務とは
図を用いて退職給付債務や勤務費用、利息費用の概要を説明しています。
【解説】 退職給付債務計算の概要
単純な数値例を用いて退職給付債務の計算方法を解説しています。(後半の退職給付債務の近似については、読み飛ばして構いません)
【解説】 期間帰属方法とは
退職給付債務の計算の根幹となっているのが期間帰属方法です。先の解説ページですでに登場していますが、このページではポイント制の期間帰属方法についても説明しています。
【資料ダウンロード】 退職給付見込額の期間帰属方法の違い
期間帰属方法について数式を使って解説した資料です。主に計算当初の期間帰属方法の選択をテーマにした資料ですが、すでに原則法を適用している場合でも参考になります。
原則法移行向けの資料も活用して理解する
簡便法から原則法に移行する企業向けの解説資料では、単純な計算方法である簡便法と原則法でどのような違いがあるか対比しながら説明されることが多いので、すでに原則法を採用している企業の担当者でも退職給付会計を理解するのに役立ちます。簡便法の計算方法や移行する際の会計処理などは読み飛ばし、必要な部分だけ読むといいでしょう。
【資料ダウンロード】 退職給付会計の原則法導入にあたっての準備
退職給付債務・退職給付費用・退職給付引当金について、数値例を使いながら簡便法との対比で説明しているほか、人事データや計算前提の概要についても知ることができます。
【資料ダウンロード】 原則法導入後の初回決算時の検討事項
計算前提の見直しの方針や数理計算上の差異の処理方法等についてまとめられています。

実務を行うための知識を増やす
実務フローについてはダウンロード資料『退職給付債務計算の実務上のポイント』で6つのステップで説明されていました。ここでは、各ステップの知識を増やすための解説ページや資料をご紹介します。担当業務に関連するところから取り組むとよいでしょう。
Step1 計算基礎に関する方針確認
企業の実務においては、退職給付債務の計算方法そのものより、その前提が適切であるかどうかが問われることの方が多いです(退職給付債務は専門家が業界のガイドラインに準じて計算しているため)。「設定方法」「見直しサイクル」の理解を深め、計算委託先に適切な指示を行えることを目指しましょう。自社で採用している「設定方法」や「見直しのサイクル」を確認した上で、解説を読むと理解が進みます。併せて、「退職給付債務への影響」についてもイメージが持てるようになると、計算基礎の見直しによって財務的な影響が生じた際に社内で的確な説明ができるようになります。
【解説】 割引率とは
【解説】 退職率・死亡率と予想昇給率
【解説】 予想再評価率と一時金選択率
【資料ダウンロード】 退職給付会計における基礎率の設定例
設定に迷いやすい一時金選択率と予想再評価率について複数の具体的な設定例を解説した資料です。
Step2 人事データの作成
適切な退職給付債務を算定するために、正確な人事データを用いることは非常に重要です。人事データの誤りがあると、データの修正で計算結果の入手が遅れたり、再計算が必要になったりして、その後のスケジュールに大きな影響を及ぼす可能性があります。用意すべき項目の意味を理解し、データの漏れや誤りがないようにチェックしながらデータを作成しましょう。
Step3 退職給付債務の計算
計算委託先に計算前提の指示とデータの提供を行ったら、計算結果を入手するのを待つだけです。しかし、決算日より前に計算結果を入手している場合には、退職給付債務を確定するために、補正計算を行う必要があります。補正のためのツールは計算委託先から提供されることが多いので、補正に用いるデータ(退職者や給付支払額)が正しいことを確認して、退職給付債務を確定しましょう。
Step4 会計処理
退職給付会計では、退職給付引当金と退職給付費用が複数の要素を用いて算出されるため、これをできるだけ分かりやすく整理して算出できるように、ワークシートが活用されています。ワークシートだけでは、項目同士の関連が分かりづらい場合には、図を用いた解説で理解してから再度ワークシートに戻るとよいかもしれません。年度末の処理の結果、数理計算上の差異が発生し、財務的に大きな影響を与えるケースもあります。数理計算上の差異がなぜ生じるのか、その償却が財務的にどのような影響を与えるのかを学びましょう。
【解説】 会計処理の全体像
個別財務諸表における会計処理を図・仕訳・ワークシートにより解説しています。
【解説】 連結財務諸表の会計処理
上記の連結財務諸表版です。
【解説】 未認識項目とは
会計処理の中で発生する未認識項目について、償却方法や発生要因を解説しています。会計基準変更時差異は現在では基本的に発生しないため、読み飛ばして構いません。
【資料ダウンロード】 退職給付会計における基礎率の設定例
企業年金制度があれば、会計処理のためには長期期待運用収益率の設定が必要となります。こちらの資料では、設定例を解説しています。
Step5 開示対応
開示項目については『退職給付に関する会計基準の適用指針』(企業会計基準委員会)の中で具体的な例が記載されています。数理計算上の計算基礎に関する事項では、割引率と長期期待運用収益率の開示例が記載されていますが、その他の重要な計算基礎として、予想昇給率の記載が求められることも多いので注意しましょう。
Step6 監査対応
ここまでの内容の理解を深めることが、そのまま監査上の質問に対応する力を高めることに繋がります。実際の監査上の質問は、過去の経緯や企業特有の事情に関することも多いため、現状の処理方法で一般的な処理と異なる部分はあるか、といった視点で振り返ることも重要です。
また、一般的な解説資料などでは説明されていないような専門的な質問を受けることもありますので、その場合には計算委託先に回答案を作ってもらうことや直接説明してもらうことも検討しましょう。質問や回答は会計基準などを基に行うこともありますので、必要に応じて関連基準も参照できるようにしておきましょう。
【コラム】 退職給付会計の関連基準のまとめ
国際財務報告基準(IFRS)での取り扱い
日本基準とIFRSで退職給付債務の計算方法はほとんどが共通しています。一方、会計処理の方法は大きく異なりますので、相違点に着目してIFRSでの会計処理を理解するとよいでしょう。

全体像の振り返り
退職給付会計で学ぶべき内容は多岐にわたっており、WEBでの解説や書籍では分量が多く、内容を振り返るときに不便なことがあります。これを解消するものとして、Pmasでは関連する重要な事項を一覧できるようまとめた『退職給付会計体系マップ』を無料でダウンロードできるようにしています。Pmasの中でも最もダウンロードされている資料で、多くのご担当者にご活用いただいています。
まとめ
初心者が退職給付会計業務をWEBで学ぶ方法について、Pmasの資料や解説ページを紹介しながら説明してきました。最初は見慣れない用語に戸惑うことも多いと思いますが、少しずつ理解していきましょう。計算委託先によっては不定期での解説セミナーを開催していることがあります。セミナーでは、短い時間でいかに参加者に理解していただくか、工夫が凝らされていることが多いので大いに活用しましょう(IICパートナーズではお取引様向けに過去のセミナーやテーマごとの解説動画をサポートサイトでご提供しています)。
Pmasでは、今後も分かりやすいコンテンツの作成・改善に努めて参りますので、引き続きご活用ください。
※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。
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この記事を書いた人 取締役 日本アクチュアリー会準会員 / 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー) 辻󠄀 傑司 |
世論調査の専門機関にて実査の管理・監査業務に従事した後、2009年IICパートナーズに入社。 退職給付会計基準の改正を始めとして、原則法移行やIFRS導入等、企業の財務諸表に大きな影響を与える会計処理を多数経験。 |