ここでは退職給付会計の仕訳(個別財務諸表)を説明します。
退職給付費用の計上や退職金や掛金支払いの際の仕訳について理解を深めましょう。
具体的な数値例で解説していますので、簿記が苦手な方もぜひご覧ください。
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退職給付会計の仕訳(個別財務諸表)
期中における退職給付引当金の増加要因は「退職給付費用」、減少要因は2つのキャッシュアウト項目(退職一時金制度からの支払・年金掛金の拠出)です。ここではそれぞれの要因に伴う退職給付会計の仕訳について解説します。
「退職給付費用」による仕訳
勤務費用100・利息費用15の計上
- (借方)退職給付費用
- 115
- (貸方)退職給付引当金
【DBOの増加】 - 115
退職給付債務(DBO)は、勤務費用と利息費用の累積ですので、勤務費用100と利息費用15を計上するということは、DBOが115増加することを意味します。DBOが115増加すれば、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金は115増加します。
退職給付引当金という負債は、貸方(右側)の科目ですので、退職給付引当金を増加させるという意味で、「(貸方)退職給付引当金 115」となります。一方、「勤務費用と利息費用は、退職給付費用の5つの構成要素のうちの2つ」ですので、勤務費用100と利息費用15の合計115だけ退職給付費用が増加します。退職給付費用という費用は、借方(左側)の科目ですので、退職給付費用を増加させるという意味で、「(借方)退職給付費用 115」となります。
期待運用収益△10の計上
- (借方)退職給付引当金
【年金資産の増加】 - 10
- (貸方)退職給付費用
- 10
期待運用収益を10計上するということは、年金資産が10増加したものとみなすことを意味します。年金資産が10増加すれば、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金は10減少します。
退職給付引当金は、貸方(右側)の科目ですので、退職給付引当金を減少させるという意味で、「(借方)退職給付引当金 10」となります。一方、「期待運用収益は、退職給付費用の5つの構成要素のうちの1つであり、かつ、退職給付費用の控除項目」ですので、期待運用収益10だけ退職給付費用が減少します。退職給付費用は、借方(左側)の科目ですので、退職給付費用を減少させるという意味で、「(貸方)退職給付費用 10」となります。
過去勤務費用の償却10・数理計算上の差異の償却15
- (借方)退職給付費用
- 25
- (貸方)退職給付引当金
【未認識項目(借方残高)の減少】 - 25
過去勤務費用を10償却し、数理計算上の差異を15償却するということは、合計で25だけ未認識項目の(借方)残高を減少させることを意味します。未認識項目が25減少すれば、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金は25増加します。
退職給付引当金は、貸方(右側)の科目ですので、退職給付引当金を増加させるという意味で、「(貸方)退職給付引当金 25」となります。
一方、「2つの未認識項目の当期償却額は、退職給付費用の5つの構成要素のうちの2つ」ですので、合計で25の未認識項目償却額の分だけ退職給付費用が増加します。退職給付費用は、借方(左側)の科目ですので、退職給付費用を増加させるという意味で、「(借方)退職給付費用 25」となります。
(注:ここでは、未認識項目が借方残高(=損失方向の残高)であるという前提で解説していますが、貸方残高(=利益方向の残高)であることもあります。その場合は、未認識項目の正負が反対になります。)
「2.キャッシュアウト項目」による仕訳
退職一時金制度からの支払20
- (借方)退職給付引当金
【DBOの減少】 - 20
- (貸方)現金預金
- 20
会社が、退職一時金制度から退職者に対して退職金を支払うことにより、従業員等に対する支払義務が小さくなりますので、「従業員等に対する退職給付の支払義務を現在価値に直したDBO」も減少します。そのDBO減少額は支払額と同じ20であるとみなします。したがって、DBOが20減少すれば、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金は20減少します。
退職給付引当金は、貸方(右側)の科目ですので、退職給付引当金を減少させるという意味で、「(借方)退職給付引当金 20」となります。一方、退職一時金制度からの支払は、会社本体が持っている現金預金を退職者へ支払うことを意味しますので、現金預金という資産、すなわち借方(左側)の科目を減少させるという意味で、「(貸方)現金預金 20」となります。
年金掛金の拠出100
- (借方)退職給付引当金
【年金資産の増加】 - 100
- (貸方)現金預金
- 100
会社が、年金制度に対して、掛金100を拠出することにより、年金資産は100増加します。年金資産が100増加すれば、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金は100減少します。
退職給付引当金は、貸方(右側)の科目ですので、退職給付引当金を減少させるという意味で、「(借方)退職給付引当金 100」となります。一方、年金掛金の拠出とは、会社本体が持っている現金預金を年金制度へ支払うことを意味しますので、現金預金という資産、すなわち借方(左側)の科目を減少させるという意味で、「(貸方)現金預金 100」となります。
年金制度からの支払30
- (借方)退職給付引当金
【DBOの減少】 - 30
- (貸方)退職給付引当金
【年金資産の減少】 - 30
- (貸借相殺)仕訳なし
年金制度から退職者または年金受給者に対して一時金給付または年金給付を支払うことにより、従業員等に対する支払義務が小さくなりますので、DBOも減少します。そのDBO減少額は支払額と同じ30であるとみなします。したがって、DBOが30減少すれば、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金は30減少します。
しかし、一方で、年金制度から退職者または年金受給者に対して30の支払を行うことにより、年金制度が保有している年金資産も30減少します。年金資産が30減少すれば、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金は30増加します。
結果として、借方と貸方の勘定科目と金額が「退職給付引当金30」で一致するので、貸借相殺して「仕訳なし」ということになります。
その他:割増退職金の支払
退職一時金制度における割増退職金の会計処理は、当該割増退職金がDBOの評価対象に含まれているか否かで分かれることになります。
DBOに割増退職金分が含まれている場合
- (借方)退職給付引当金
【DBOの減少】 - XX
- (貸方)現金預金
- XX
DBOに割増退職金分が含まれている場合には、当該割増退職金の支払いによりDBOが減少しますので、「退職一時金制度からの支払」と同様に、「DBO-年金資産-未認識項目」で算定される退職給付引当金を減少させる必要があります。
DBOに割増退職金分が含まれていない場合
- (借方)退職給付費用
- XX
- (貸方)現金預金
- XX
DBOに割増退職金分が含まれていない場合には、当該割増退職金の支払いによってDBOは減少しません。また、年金資産や未認識項目にも影響しませんので、退職給付引当金は変動しないことになります。したがって、当該割増退職金の支払額を「退職給付費用」として費用処理することになります。
【監修】株式会社IICパートナーズ
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