退職率・死亡率と予想昇給率

退職率・死亡率と予想昇給率は退職給付債務の計算で使用される計算基礎です。
計算基礎は、各企業が確定することになりますが、これらの計算基礎については、一般的に退職給付債務計算の計算機関から提案されたものを使用することが多いと思われます。その提案が適切なものかどうか判断できるよう、しっかり学んで計算基礎を確定できるようにしましょう。

退職率とは、退職給付債務の計算で使用される人口統計的な計算基礎の1つで、「在籍する従業員が自己都合や定年等により生存退職する年齢ごとの発生率」のことであり、在籍する従業員が今後どのような割合で退職していくかを推計する際に使用する計算基礎のことをいいます。

実務上、直近3~5年間の在職及び退職の実績に基づいて算定することが一般的ですが、異常値(リストラに伴う大量解雇、退職加算金を上乗せした退職の勧誘による大量退職等に基づく値)があればこれを除いた過去の実績に基づき、合理的に算定する必要があります。

確定給付企業年金制度等の企業年金制度を採用している場合には、企業年金制度の財政の目的で使用されている基礎率をそのまま使用することも考えられますが、この場合には、計算対象者の範囲の相違等に留意して、退職給付債務計算の計算基礎としてそのまま使用することの妥当性について検討する必要があります。

また、対象者数が少ない、会社設立後の年数が短いなどのために、退職率を合理的に推定するための経験データを十分に得られない場合は、例えば、同業種の類似企業で使用している退職率、所属する業種の統計資料を基にした推定、又は、それらに対して適用対象者の経験データを基に合理的な補正を行うことを検討する、とされています。

なお、原則として、退職率は個別企業ごとに算定しますが、連合型の企業年金制度において勤務環境が類似する企業集団に属する場合には、この集団の退職率を用いることができます。

会計基準において、計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができるとあります。退職率の重要性の判断にあたっては、それぞれの企業固有の実績等に基づいて退職給付債務等に重要な影響があると認められる場合は、退職率を再検討し、それ以外の事業年度においては、見直さないことができます。

また、企業年金制度における財政再計算時の基礎率の見直しがあった場合、退職給付債務の計算に反映させるように見直すべきか検討することが適当、とされています。

退職率が退職給付債務に与える影響は一概にはいえませんが、特定のケースにおいては、ある程度予測することができます。例えば、定年退職に比べ自己都合退職の退職金額が大幅に減額される制度の場合、退職率が上昇すると退職金額の少ない自己都合退職を多く見込むことになり、退職給付債務は減少します。一方、退職率が低下すると自己都合退職の見込みが減少し、退職金額の多い定年退職者を多く見込むことになり、退職給付債務は増加します。

一般的に、勤続年数が長くなるにつれて、退職金額の増加割合が大きくなる制度の場合、退職率が上昇すると退職給付債務は減少し、退職率が低下すると退職給付債務は増加する傾向にあります。

死亡率とは、退職給付債務の計算で使用される人口統計的な計算基礎の1つで、「従業員の在職中及び退職後における年齢ごとの死亡発生率」のことをいいます。

年金給付は、通常、退職後の従業員が生存している期間にわたって支払われるものであることから、生存人員数を推定するために年齢ごとの死亡率を使うのが原則です。
死亡率は、他の計算基礎と異なり、企業固有の実績に基づいて算定するのではなく、全人口の生命統計表等を基に合理的に算定します。例えば、日本の国民生命表の死亡率は、非就労者も含めた経験値に基づくものであることから、これに合理的な補正を行うことが適当である場合が多い、とされています。

なお、企業固有の実績等、特定の集団の経験データに基づいて独自の死亡率を作成することは、集団の構成員の数が大きく十分なデータが利用できるなど、合理性が高い場合に限られるべきである、とされています。

また、将来の死亡率の変化が合理的に見込まれ、かつ、重要性が高いと判断される場合には、これを織り込むことが考えられる、とされています。

死亡率は、生命表と呼ばれる統計資料の中に出てくる数値の一つで男女別かつ年齢(0歳~110歳程度)別に定められています。

生命表には、厚生労働省が全国民の統計を基に作成する国民生命表、民間の生命保険会社が契約者の統計を基に作成する経験生命表があります。

また国民生命表には、国勢調査に基づき精緻に算定された完全生命表(5年毎に作成)と推計値等を用いて簡易的に算定された簡易生命表(毎年作成)があります。

死亡率には大きく分けて2つの役割があります。

役割1.「従業員」について、定年年齢に到達するまでの各年齢においてどの位の者が死亡するか予測するため。

役割2.「退職者」について、年金支給が終了するまでの各年齢においてどの位の者が死亡するか予測するため(企業年金制度のみで使用)。

また、死亡率は、完全生命表の作成に使用した統計がベースになります。但し、死亡率の算定対象等の違いにより下記の3種類が存在します。

  1. 完全生命表の死亡率
    完全生命表の死亡率をそのまま使用します。すなわち日本国民全体を算定対象とした死亡率ということになります。
  2. 厚生年金基金財政運営基準に定める率
    5年に1度実施される厚生年金保険の財政検証に使用する死亡率で、厚生年金基金の財政計算でも使用します。ベースとなる統計は上記1.と共通ですが、使用目的に応じて算定対象を限定し、1.の死亡率に一定の補正を加えた率となっています。
    具体的には、対象者を「厚生年金保険の被保険者に限定したもの」及び「厚生年金保険及び国民年金の老齢年金受給権者に限定したもの」の2種類の率を作成しています。2種類の死亡率は、前者は「役割1」、後者は「役割2」のために使用します。
  3. 確定給付企業年金の財政計算で使用する基準死亡率
    上記2.で使用する2種類の死亡率のうち、後者(厚生年金保険及び国民年金の老齢年金受給権者に限定したもの)のみを使用します。財政計算に大きな影響を与えるのは「役割2」の方なので、「役割2」で使用する後者の死亡率に一本化されました(「役割1」の計算でも後者の死亡率を使用します)。

会計基準において、計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができるとあります。死亡率の重要性の判断にあたっては、退職給付債務等に重要な影響があると認められる場合は、死亡率を再検討し、それ以外の事業年度においては、見直さないことができます。

計算に使用している死亡率については、公表されているもののうち、例えば厚生年金基金財政運営基準に定める率などで最新のものを常に適用する、という実務が多く見られます。

死亡率が退職給付債務に与える影響は、年金の給付内容によってある程度予測することができます。具体的には、終身年金を支給する制度で保証期間がない、あるいは保証期間が短い場合には、死亡率が退職給付債務に与える影響は比較的大きく、死亡率が低下すれば、年金の支払いを多く見込むことになり退職給付債務は増加します。

一方で、退職一時金制度や確定年金(支給開始から一定期間生死に関係なく支給される年金)を支給する制度の場合には、死亡率の影響は小さいと考えられます。

予想昇給率とは、「年齢や勤務年数の伸びによる将来の給与の予想上昇率」のことをいい、確実に見込まれる要素に限定せず、予想されるものを全て織り込むよう算定します。

ポイント制を採用している企業の予想昇給率は、勤務期間や職能資格制度に基づく「ポイント」により算定します。

予想昇給率は、個別企業の給与規程、平均給与の実態分布及び過去の昇給実績等に基づき、合理的に推定して算出します。過去の昇給実績は、過去の実績に含まれる異常値(急激な業績拡大に伴う大幅な給与加算額、急激なインフレによる給与テーブルの改訂等に基づく値)は除き、合理的な要因のみを用いる必要があります。

なお、原則として、予想昇給率は個別企業ごとに算定しますが、連合型の企業年金制度において、給与規程及び平均給与の実態等が類似する企業集団に属する場合には、この集団の予想昇給率を用いることができます。

日本では、予想昇給率は、対象給与の昇給が、「A:年齢や経験年数との相関が見られる部分」と、「B:ベースアップに相当する部分」から構成されると考えて推定することが適当な場合が多い、とされています。

「A:年齢や経験年数との相関が見られる部分」

退職給付債務の計算で使用される人口統計的な計算基礎とされ、経験の蓄積や雇用主への貢献に応じて昇給する部分などを指しているものであり、対象給与のデータを基に年齢別の指数を推定するといった数理的な手法が用いられることが一般的です。 確定給付企業年金制度等の企業年金制度を採用している場合には、企業年金制度の財政の目的で使用されている基礎率を使用することも考えられますが、この場合には、計算対象者の範囲の相違等に留意して、退職給付債務計算の計算基礎としてそのまま使用することの妥当性について検討する必要があります。

また、適用対象者数が少ないなどのために、予想昇給率を合理的に推定するための対象給与のデータを十分得られない場合は、例えば、同業種の類似企業で使用している予想昇給率、所属する業種の統計資料を基にした推定、又は、それらに対して対象給与の特性や対象給与のデータに基づく合理的な補正を行うことを検討する、とされています。 さらに、給与体系の変更等により、対象給与のデータを基にすることが適当ではない場合は、給与体系の変更内容や昇給モデルなど、十分な情報収集を行った上で予想昇給率を設定します。

ポイント制においては、「予想ポイント」と「ポイント単価の予想」のうち、「予想ポイント」がこの部分に該当します。

「B:ベースアップに相当する部分」

退職給付債務の計算で使用される金融経済的な計算基礎とされ、インフレや生産性の向上の見込み等から合理的に予想して、予想昇給率に含めるものとされています。 なお、金融経済的な計算基礎は、他の金融経済的な計算基礎(割引率、予想再評価率等)との整合性に留意して設定します。

ポイント制においては、「予想ポイント」と「ポイント単価の予想」のうち、「ポイント単価の予想」がこの部分に該当します。

会計基準において、計算基礎に重要な変動が生じていない場合には、これを見直さないことができるとあります。予想昇給率の重要性の判断にあたっては、それぞれの企業固有の実績等に基づいて退職給付債務等に重要な影響があると認められる場合は、予想昇給率を再検討し、それ以外の事業年度においては、見直さないことができます。

また、企業年金制度における財政再計算時の基礎率の見直しがあった場合、退職給付債務の計算に反映させるように見直すべきか検討することが適当とされています。

一般的に、予想昇給率が上昇すれば、退職給付見込額が増加するため退職給付債務は増加します。一方、予想昇給率が低下すれば、退職給付見込額が減少するため退職給付債務は減少します。

ただし、人口統計的な計算基礎である予想昇給率については、上記の影響は、予想昇給率が一律上昇した場合にいえることであり、予想昇給率を年齢別に算定しているケースで、一部の年齢層では上昇し、一部の年齢層では低下するといった場合には、退職給付債務への影響は一概にはいえません。

また、同じく人口統計的な計算基礎である予想昇給率については、最終給与比例制における予想昇給率に比べると、ポイント制の予想昇給率(予想ポイント)は、退職給付債務への影響が限定されます。これは、ポイント制が累積型の制度のため、期末までに付与されたポイントは確定しており、予想昇給率(予想ポイント)が反映されるのは翌期以降に付与される見込みのポイントのみになるためです。

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