退職給付債務計算の概要

退職給付債務とは、退職により見込まれる退職給付の総額のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算するものとされていますが、具体的にはどのような計算で求めているのでしょうか。
ここでは、その具体的な計算式を、例を交えて解説していきます。

退職給付債務は、「退職により見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち、期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算」します。
退職給付見込額は、「合理的に見込まれる退職給付の変動要因(予想される昇給等)を考慮して見積る」とされており、具体的には、予想退職時期ごとに、従業員に支給されると見込まれる退職給付額に退職率及び死亡率を加味し、退職事由(自己都合退職、会社都合退職等)や支給方法(一時金、年金)により給付率が異なる場合には、原則として、退職事由及び支給方法の発生確率を加味して計算します。

また、退職給付見込額のうち期末までに発生したと認められる額は、次のいずれかの方法を選択適用して計算します。この方法のことを、期間帰属方法といいます。

  • 期間定額基準:退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法
  • 給付算定式基準:退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積った額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法

ここでは、従業員Aさんを例に、退職給付債務の計算イメージを説明します。

【例】

従業員Aさん 入社年齢:20歳  現在年齢:30歳  現在の給与:300,000円

給付内容 : 退職一時金制度(最終給与比例制)
支給率   勤続10年 : 5.5  
      勤続30年 : 20.0
      勤続40年 : 30.0
計算基礎   割引率 : 2.0%
       退職率 : 30%の確率で50歳で退職、70%の確率で60歳で退職
     予想昇給率 : 30歳から50歳への給与の伸びは1.5倍、 30歳から60歳への給与の伸びは2.0倍

期間帰属方法が「期間定額基準」の場合、退職給付債務は次の3つのステップで算定します。

  1. 予想退職時期ごとに、退職率、予想昇給率、支払条件等を織り込んで、将来の退職給付額のキャッシュフロー(退職給付見込額)を予測
  2. 1.の額に勤続年数の比率を乗じ、期末までに発生していると認められる額を計算
  3. 2.の額に割引率を使って、期末まで割引計算

ステップ1
予想退職時期ごとに、退職率、予想昇給率、支払条件等を織り込んで、将来の退職給付額のキャッシュフロー(退職給付見込額)を予測

まず、退職給付見込額は予想退職時期ごとに見積るため、この例の場合、50歳時と60歳時で計算します。そして、従業員に支給されると見込まれる退職給付額に退職率を加味して計算し、予想昇給率も考慮します。

  • 50歳時
50歳時の退職給付見込額
  • 60歳時
60歳時の退職給付見込額

ステップ2
ステップ1の額に勤続年数の比率を乗じ、期末までに発生していると認められる額を計算

期間定額基準の場合、「退職給付見込額について全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法」のため、期末までに発生していると認められる額は

期末までに発生していると認められる額の計算式

の按分比率を乗じることにより計算します。

  • 50歳時

 

50歳時の期末までに発生していると認められる額の計算式
  • 60歳時

 

60歳時の期末までに発生していると認められる額の計算式

ステップ3
ステップ2の額に割引率を使って、期末まで割引計算

現在価値を算定するには、割引率を用いて

割引率を用いた現価値の算定式

を乗じて計算します。

  • 50歳時
50歳時の割引率を用いた現価値の算定式
  • 60歳時
60歳時の割引率を用いた現価値の算定式

最後に、この額を合計した2,344,697円が退職給付債務となります。

ここでも、同じ従業員Aさんを例に、退職給付債務の計算イメージを説明します。

【例】

従業員Aさん 入社年齢:20歳  現在年齢:30歳  現在の給与:300,000円

給付内容 : 退職一時金制度(最終給与比例制)
支給率   勤続10年 : 5.5  
      勤続30年 : 20.0  
      勤続40年 : 30.0
計算基礎   割引率 : 2.0%
       退職率 : 30%の確率で50歳で退職、70%の確率で60歳で退職
     予想昇給率 : 30歳から50歳への給与の伸びは1.5倍、 30歳から60歳への給与の伸びは2.0倍

期間帰属方法が「給付算定式基準」の場合、退職給付債務は次の3つのステップで算定します。

  1. 給付算定式に従って、期末までの期間に帰属させた額を見積る
  2. 1.の額に退職率、予想昇給率、支払条件等の変動要因を織り込んだキャッシュフローを計算
  3. 2.の額に割引率を使って、期末まで割引計算

ステップ1
給付算定式に従って、期末までの期間に帰属させた額を見積る

まず、給付算定式に従って、期末までの期間に帰属させた額を見積ります。
この場合は、「現在の給与×現在の勤続年数の支給率」を期末までの期間に帰属させた額とします。

期末までの期間に付属させた額

ステップ2
ステップ1の額に退職率、予想昇給率、支払条件等の変動要因を織り込んだキャッシュフローを計算

次に、ステップ1の額に対して、予想退職時期ごとに退職率、予想昇給率を織り込んでキャッシュフローを計算します。

  • 50歳時
50歳時のステップ1の額
  • 60歳時
60歳時のステップ1の額

ステップ3
ステップ2の額に割引率を使って、期末まで割引計算

現在価値を算定するには、割引率を用いて

を乗じて計算します。

  • 50歳時
  • 60歳時

最後に、この額を合計した1,774,965円が退職給付債務となります。

勤務費用とは、「退職により見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち、当期に発生したと認められる額を割り引いて計算」します。退職給付債務との違いは、退職給付債務では「期末までに発生していると認められる額」であるのに対し、勤務費用では「当期に発生したと認められる額」になっている点です。つまり、勤務費用は退職給付債務のうち当期1年分というイメージです。

利息費用とは、「割引計算により算定された期首時点における退職給付債務について、期末までの時の経過により発生する計算上の利息」のことをいい、「期首の退職給付債務に割引率を乗じて計算」します。1年間の時の経過により発生する退職給付債務の利息というイメージです。

ここで、退職給付債務、勤務費用、利息費用の3つの関係が非常に重要になります。
勤務費用は退職給付債務のうち当期1年分、と説明しましたが、勤務費用を累積しただけでは退職給付債務にはなりません。退職給付債務は、時の経過による金利を考慮して計算しているため、この時の経過により発生する退職給付債務の利息である利息費用の累積と勤務費用の累積を合算すると、退職給付債務になるという関係にあります。

なお、計算機関における退職給付債務計算は、当期末の退職給付債務と同時に翌期の勤務費用(および利息費用)を計算することが一般的です。

貸借対照表日における退職給付債務は、貸借対照表日現在のデータ及び計算基礎(データ等)を用いて計算することが原則です。
ただし、次のような方法で貸借対照表日前のデータ等を用いて、退職給付債務を計算することが認められています。

  • データ等の基準日から期末までの期間の調整
  • 割引率に関する合理的な補正

データ等の基準日から期末までの期間(調整期間)に関する退職給付債務及び翌期の勤務費用の調整として、2つの方法(転がし方式、抜き取り方式)があります。

転がし方式

データ等の基準日を期末前としている場合、調整期間中に発生する勤務費用、利息費用及び給付支払額を用いて、次のようにデータ等の基準日で算定された調整前退職給付債務等から期末における退職給付債務等を算出します。

退職給付債務の計算に使用する従業員等のデータの基準日を「データ基準日」、このデータに基づく退職給付債務の債務評価をする基準日を「計算基準日(評価基準日)」とした場合、 データ基準日=計算基準日(評価基準日)≠期末日(貸借対照表日) のケースで使用される方式です。

転がし方式

(注1)nは調整月、iは割引率。
(注2)調整期間中の給付支払額には実績値又は予測の金額を用いる。
(注3)勤務費用については、本来は、調整期間中の新入者、退職者に関する調整と調整期間中の割引率の影響を考慮するべきであるが、これらを把握することの困難さと重要性とを勘案して、上式ではこれらが概ね相殺するものとしている。例えば、調整期間中の新入者、及び、退職者による影響が十分小さいと推定される場合には、次の近似式が用いられる。

転がし方式の計算方法
転がし方式の図

抜き取り方式

退職給付債務等の計算基準日を期末としておき、調整期間中の死亡者及び退職者の異動データを用いて補正することにより調整を行います。

転がし方式とは異なり、 データ基準日≠計算基準日(評価基準日)=期末日(貸借対照表日) のケースで使用される方式です。

抜き取り方式

(注1)計算基準日を期末とするにあたっては、データ等の基準日から期末までの間の昇給、ポイント制におけるポイントの累積、キャッシュ・バランス・プランにおける仮想個人勘定の累積などを考慮することに留意する。

(注2)調整期間中の新入者に関する影響が軽微ではない場合は、新入者に係る退職給付債務や勤務費用を加算する。

(注3)異動データに関する退職給付債務として、給付支払額の実績を用いることも考えられる。

(注4)退職一時金制度の場合において、調整期間中に予定されている定年退職者等については事前に除外しておくことも考えられる。

(注5)年金制度の場合において、年金給付を選択した退職者については、退職給付債務を年金受給者又は年金受給待期者として評価する。在職者の退職給付債務で代用する場合には、特に、一時金選択率の取扱いに留意する。

抜き取り方式の図

単一加重平均割引率により退職給付債務等を算定する場合、2つの割引率に基づく退職給付債務から補正して得る方法として、2つの方法(線形補間、対数補間)があります。

これは、貸借対照表日前に2つの割引率による退職給付債務を算出しておき、貸借対照表日現在の割引率が判明したら、この事前に算出した2つの退職給付債務から貸借対照表日現在の割引率による退職給付債務を補正によって算出する方法です。

割引率に基づく退職給付債務から補正して得る2つの方法

線形補間

直線補間により補正計算する方法

対数補間

平均割引期間の概念を用い近似式を使用する方法

翌期の勤務費用も退職給付債務と同様に補正することができます。

計算基礎は、退職給付債務等を計算するにあたって重要な要素であり、金融経済的な計算基礎と人口統計的な計算基礎とに分類されます。

割引率、給付改定の予想、予想昇給率のうちベースアップに相当する部分、ポイント制におけるポイント単価の予想、キャッシュ・バランス・プランにおける予想再評価率が含まれます。

金融経済的な計算基礎は、退職給付債務の計算対象となる支払い見込み期間の全体を対象として、市場のデータや、市場関係者間で共有されている予測数値などを参考にして設定します。また、金融経済的な計算基礎は、他の金融経済的な計算基礎との整合性に留意して設定します。

退職率、死亡率、一時金選択率、予想昇給率のうち年齢や経験年数との相関が見られる部分、ポイント制における予想ポイントが含まれます。
人口統計的な計算基礎は、退職給付債務の計算対象となる集団の特性を反映するものであり、その集団の経験データ等を用いて推定します。

また、確定給付企業年金制度等の企業年金制度を採用している場合には、企業年金制度の財政の目的で使用されている基礎率をそのまま使用することが考えられますが、これらの基礎率は、企業年金制度における財政上の観点を重視して設定されている場合や、法令等による制約が課せられている場合があるほか、退職給付債務の計算対象者と企業年金制度の加入者の範囲が異なる場合があることに留意して、退職給付債務計算の計算基礎としてそのまま使用することの妥当性について検討する必要があります。

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