財務諸表の注記事項

2012年5月の会計基準改正によって確定給付制度の原則法における注記事項が大幅に拡充されました。ここでは、注記事項について説明します。

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確定給付制度について原則法を採用している場合、次の事項を連結財務諸表および個別財務諸表に注記します。2~11については、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載する必要はありません。 『退職給付に関する会計基準の適用指針』(企業会計基準委員会)の「参考(開示例)」を一部加工したものを例に説明します。

  1. 退職給付の会計処理基準に関する事項
  2. 企業の採用する確定給付制度の概要
  3. 退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表
  4. 年金資産の期首残高と期末残高の調整表
  5. 退職給付債務および年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る負債および資産の調整表
  6. 退職給付に関連する損益
  7. その他の包括利益に計上された数理計算上の差異および過去勤務費用の内訳
  8. 貸借対照表のその他の包括利益累計額に計上された未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の内訳
  9. 年金資産に関する事項
  10. 数理計算上の計算基礎に関する事項
  11. その他の事項

他の会計同様、退職給付会計に関する重要な会計方針を記載します。

■ 退職給付の会計処理基準に関する事項(開示例)

(退職給付に係る重要な会計方針)

<退職給付に係る負債または資産並びに退職給付費用の処理方法>

1.退職給付見込額の期間帰属方法

退職給付債務の算定にあたり、退職給付見込額を当期までの期間に帰属させる方法については、期間定額基準によっている。

2.数理計算上の差異および過去勤務費用の費用処理方法

過去勤務費用は、その発生時の従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数(10~15年)による定額法により費用処理している。
数理計算上の差異は、各連結会計年度の発生時における従業員の平均残存期間以内の一定の年数(10~15年)による定額法、(一定の連結子会社は定率法)により按分した額をそれぞれ発生の翌連結会計年度から費用処理することとしている。

企業の採用する退職給付制度の一般的説明を記載します。

■ 企業の採用する退職給付制度の概要(開示例)

1.採用している退職給付制度の概要

当社および連結子会社は、従業員の退職給付に充てるため、積立型、非積立型の確定給付制度および確定拠出制度を採用している。

確定給付企業年金制度(すべて積立型制度である。)では、給与の勤務期間に基づいた一時金または年金を支給する。
ただし、一部の連結子会社は、確定給付企業年金制度にキャッシュ・バランス・プランを導入している。
当該制度では、加入者ごとに積立額および年金額の原資に相当する仮想個人口座を設ける。仮想個人口座には、主として市場金利の動向に基づく利息クレジットと、給与水準に基づく拠出クレジットを累積する。

一部の確定給付企業年金制度には、退職給付信託が設定されている。

退職一時金制度(非積立型制度であるが、退職給付信託を設定した結果、積立型制度となっているものがある。)では、退職給付として、給与と勤務期間に基づいた一時金を支給する。

退職給付債務が期首から期末にかけてどのような要因によって、どれだけ変動したのかを表す調整表です。
なお、重要な企業結合、制度の終了、大量退職、その他重要な年金資産の返還や重要な退職給付信託の設定などがあった場合は、その内容を示す項目を別掲する必要があります。

■ 退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表(開示例)

期首における退職給付債務

勤務費用

利息費用

数理計算上の差異の当期発生額

退職給付の支払額

750

100

15

185

△50

期末における退職給付債務

1,000

年金資産が期首から期末にかけてどのような要因によって、どれだけ変動したのかを表す調整表です。
なお、重要な企業結合、制度の終了、大量退職、その他重要な年金資産の返還や重要な退職給付信託の設定などがあった場合は、その内容を示す項目を別掲する必要があります。

■ 年金資産の期首残高と期末残高の調整表(開示例)

期首における年金資産

期待運用収益

数理計算上の差異の当期発生額

事業主からの拠出額

退職給付の支払額

400

10

20

100

△30

期末における年金資産

500

積立型制度と非積立型制度を区別して記載することにより、積立型制度における会計上の積立比率が算定できることになります。

■ 「退職給付債務および年金資産」とB/Sに計上された「退職給付に係る負債(または資産)」の調整表(開示例)

 

積立型制度※1の退職給付債務

年金資産

600

△500

小計

非積立型制度※2の退職給付債務

100

400

貸借対照表に計上された負債と資産の純額

500

退職給付に係る負債

退職給付に係る資産

500

△0

貸借対照表に計上された負債と資産の純額

500

※1 (信託設定されていない)一時金制度

※2 年金制度+(信託設定されている)一時金制度

当期純利益を構成する項目に計上された退職給付費用の項目について記載します。なお、重要性が乏しい項目については、集約して記載することができます。
また、重要な企業結合、制度の終了、大量退職、その他重要な年金資産の返還や重要な退職給付信託の設定などがあった場合は、その内容を示す項目を別掲する必要があります。

■ 退職給付に関連する損益(開示例)

勤務費用

利息費用

期待運用収益

数理計算上の差異の当期の費用処理額

過去勤務費用の当期の費用処理額

その他(会計基準変更時差異の当期の費用処理額)

100

15

△10

15

10

20

確定給付制度に係る退職給付費用

150

数理計算上の差異、過去勤務費用、会計基準変更時差異の項目ごとに、その他の包括利益に計上された「当期発生額」から、その他の包括利益(累計額)からP/L純利益に振り替えられた「組替調整額」を控除して算定した金額を記載します。

■ その他の包括利益に計上された数理計算上の差異および過去勤務費用の内訳(開示例)

その他の包括利益に計上した項目(税効果控除前)の内訳は次のとおりである。

 

過去勤務費用

数理計算上の差異

会計基準変更時差異

10

(注)△150

20

合計

△120

(注)△150=当期発生額△165+リサイクル額15

未認識数理計算上の差異、未認識過去勤務費用、会計基準変更時差異の未処理額の項目ごとに、その他の包括利益累計額に計上された金額を記載します。

■ B/Sのその他の包括利益に計上された未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の内訳(開示例)

その他の包括利益累計額に計上した項目(税効果控除前)の内訳は次のとおりである。

 

未認識過去勤務費用

未認識数理計算上の差異

会計基準変更時差異の未処理額

40

250

20

合計

310

年金資産に関する事項として、「年金資産の主な内訳」と「長期期待運用収益率の設定方法に関する記載(年金資産の主要な種類との関連)」を記載します。
年金資産の主な内訳として、株式、債券などの種類ごとの割合または金額を記載します。 なお、退職給付信託が設定された企業年金制度について、年金資産の合計額に対する退職給付信託の額の割合が重要である場合には、その割合または金額を別に付記します。

■ 年金資産に関する事項(開示例)

【年金資産の主な内訳】
年金資産合計に対する主な分類ごとの比率は、次のとおりである。

 

債権

株式

現金および預金

その他

48%

39%

8%

5%

合計

100%

 

年金資産には、企業年金制度に対して設定した退職給付信託が××%含まれている。

【長期期待運用収益率の設定方法に関する記載】
年金資産の長期期待運用収益率を決定するため、現在および予想される年金資産の配分と年金資産を構成する多様な資産からの現在および将来期待される長期の収益率を考慮している。

数理計算上の計算基礎に関する事項として、割引率および長期期待運用収益率を記載します。また、その他の重要な計算基礎(予想昇給率等)がある場合にも記載します。

■ 数理計算上の計算基礎に関する事項(開示例)

期末における主要な数理計算上の計算基礎(加重平均で表している)

 

割引率

長期期待運用収益率

3.0%

3.6%

重要性がある場合には予想昇給率等も開示

どのように予想昇給率を開示すればよいか

まず、表記方法ですが、割引率、長期期待運用収益率と並んで記載があるので、「○%」あるいは「○%~○%」という表記になるものと思われます。

退職金制度が最終給与比例制の場合

実際の退職給付債務計算における予想昇給率はどうかというと、一般的に下のグラフのように、年齢別に昇給を見込んでいます。
具体的には、現在30歳の人については、次の1年間で(31歳の予定給与/30歳の予定給与)倍、昇給すると見込んでいます。なお、%表示にするには{(31歳の予定給与/30歳の予定給与)-1}×100(%)昇給するということになります。ここで、気をつけなければならないのが、必ずしもすべての年齢でこの率が同じ率になるわけではないということです。

(例)

30歳 262,196円 ⇒ 31歳 271,720円 : 3.6%
40歳 357,442円 ⇒ 41歳 366,967円 : 2.7%

したがって、開示にあたっては、このグラフの形状を「○%」あるいは「○%~○%」という表記に変換する必要があります。 この変換する方法として実務で使用されていると思われるのが、幾何平均を用いる方法です。これは、ある2つの年齢の予定給与を使用して、その2つの年齢間において予定給与が平均して何%上昇するかというものです。 具体的には、ある年齢を、22歳(予定給与:185,998円)と59歳(予定給与:538,410円)と設定すると、

{(538,410/185,998)^(1/(59-22))-1}×100 = 2.91… (%)

として算出します。これは、22歳の予定給与が毎年2.91…%ずつ上昇していったら、59歳時には予定給与の538,410円になるということを意味しています。

退職金制度がポイント制の場合

そもそも、ポイント制なのに予想昇給率という言葉がなじまないという方もいらっしゃるかと思います。企業年金制度ではポイント×単価を基準給与と考えることが一般的ですので、ポイント制でも予想昇給率という表現をします。

さて、この場合の算出方法ですが、基本的には、<退職金制度が最終給与比例制の場合>と同じ方法で問題ないと思います。ただし、通常の給与と違って、ポイント制の場合はいくつか留意点がありますので、それらへの対応も記載しておきます。

ポイントがある年齢もしくは勤続年数で減少するため、予定給与もある年齢から減少するケース

対応策

上記の幾何平均の年齢の設定を、予定給与が減少する直前の年齢にする。

勤続ポイントと等級ポイントで構成されており、等級ポイントのみ予想昇給率を設定しているケース(勤続ポイントは勤続年数に応じて付与されることがわかっているので予想昇給率を設定していないケース)

対応策

ポイント全体の昇給を開示するという意味では、勤続ポイントを考慮した方がよいと思われるため、上記の幾何平均の設定した年齢間に対応する勤続年数の勤続ポイントも考慮して算出する。

等級ポイントの予想昇給率

勤続ポイントのポイント表

この場合、22歳を入社1年目と考え、

{((600,000+400,000)/(150,000+200,000))^(1/(59-22))-1}×100 = 2.88… (%)

として算出します。

期間帰属方法が給付算定式基準のうち、将来のポイントの累計を織り込まない方法を採用しているため、予想昇給率を設定していないケース

対応策

開示は不要と思われます。

確定給付制度について簡便法を適用した退職給付制度がある場合、次の事項を記載します。この場合、当該制度については、原則法において求められている注記事項を記載する必要はありません。

  1. 退職給付の会計処理基準に関する事項として、適用した退職給付債務の計算方法
  2. 退職給付制度の概要として、簡便法を適用した制度の概要
  3. 簡便法を適用した制度の、退職給付に係る負債(または資産)の期首残高と期末残高の調整表(退職給付費用、退職給付の支払額、拠出額の内訳を示す。)
  4. 退職給付債務および年金資産と貸借対照表に計上された退職給付に係る資産および負債の調整表(簡便法を適用した退職給付制度以外の制度について原則法の注記をする場合、その内訳に合算することができます。)
  5. 退職給付費用(簡便法を適用した退職給付制度以外の制度について原則法の注記をする場合、その内訳に追加することができます。)

確定拠出制度を採用している場合、次の事項を連結財務諸表および個別財務諸表に注記します。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載する必要はありません。

  1. 企業の採用する確定拠出制度の概要
  2. 確定拠出制度に係る退職給付費用の額
  3. その他の事項

確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金を採用している場合は、次の事項を記載します。

1.企業の採用するリスク分担型企業年金の概要

リスク分担型企業年金の概要として、例えば、次の内容を記載します。

① 標準掛金相当額の他に、リスク対応掛金相当額があらかじめ規約に定められること

② 毎事業年度におけるリスク分担型企業年金の財政状況に応じて給付額が増減し、年金に関する財政の均衡が図られること

2.リスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額

費用処理した額を確定拠出制度に係る退職給付費用の額として記載します。

3.翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額および当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数

規約に定められる所定の方法によりあらかじめ定められた、翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額および当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数を記載します。

 
【監修】株式会社IICパートナーズ

アクチュアリー・年金数理人や公認会計士が在籍する退職給付会計のプロフェッショナル集団。
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