個別財務諸表において負債計上される「退職給付引当金」は「退職給付債務-年金資産-未認識項目」になります。この未認識項目の内、「数理計算上の差異」について、その内容や認識(償却)のルールについて説明します。
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1:数理計算上の差異の内容
数理計算上の差異とは、
- 年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異
- 退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異
- 見積数値の変更等により発生した差異
のことをいいます。
つまり、数理計算上の差異には、「当期1年分の見積数値と実績との差異(上記1、2)」と「当期末以降の将来に関する見積数値(計算基礎)の変更による差異(上記3)」という2種類があります。
また、「数理計算上の差異のうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないもの」を未認識数理計算上の差異といいます。 数理計算上の差異が発生したということは、退職給付債務または年金資産がそれだけ増減したことを意味していますので、発生時点で即時認識すべきとも考えられますが、次項の理由により遅延認識することが認められています(*)。
(*)連結財務諸表のB/S上は即時認識となります。数理計算上の差異が発生した年度において退職給付に係る負債およびその他の包括利益に計上します。その後、徐々にP/L純利益に振り替える(リサイクルする)ことにより、P/Lでは遅延認識することが認められています。
2:数理計算上の差異をP/L上遅延認識することが容認されている理由
見積数値(計算基礎)を適正に設定していれば、長期的にみると、確率統計上、損失方向の数理計算上の差異と利益方向の数理計算上の差異が将来の一定期間で相殺されると考えられるため、遅延認識することが容認されています。
3:数理計算上の差異の償却年数
以下1~3のいずれかを継続的に適用する必要があります。
- 平均残存勤務期間
- 平均残存勤務期間内の一定の年数
- 発生年度一括償却
4:数理計算上の差異の償却開始時期
数理計算上の差異は、「発生年度」または「翌年度」から償却します。
数理計算上の差異は、期中に制度終了の会計処理を行なう場合を除き、期末時点で算定しますので、「発生年度」を採用している場合、当期末に新たに発生した数理計算上の差異のうち、当期償却分については、第4四半期に計上することとなります。
一方、「翌年度」を採用している場合、当期末に新たに発生した数理計算上の差異のうち、翌期償却額を12分割した金額を第1四半期から毎月計上することになります。
5:数理計算上の差異の償却方法
定額法と定率法いずれも原則的な方法として認められています。
定額法の算定例
- 償却開始時期:翌年度から
- 数理計算上の差異発生額(x0年3月期末):100
- 数理計算上の差異発生額(x1年3月期末):50
- 償却年数:10年
→当期(x2年3月期)の数理計算上の差異償却額15=100÷10年+50÷10年
定率法の算定例
- 償却開始時期:翌年度から
- 前期末(x1年3月末)における未認識数理計算上の差異残高:100
- 償却年数:10年
- 定率法償却率:0.206(償却年数10年に応じた償却率)
→当期(x2年3月期)の数理計算上の差異償却額20.6=前期末における未認識数理計算上の差異残高100×0.206
数理計算上の差異に関するよくある質問
Q
数理計算上の差異とは?
A
事業年度末に発生する退職給付債務や年金資産の予測と実績の差異のことです。
Q
なぜ数理計算上の差異は発生するのか?
A
退職給付債務や年金資産は、退職率や予想昇給率、長期期待運用収益率などの前提を基に翌1年間の増加を見込むため、1年後の予測と実績に差異が生じます。また、退職給付債務は期末に計算の前提自体を変更することでも差異が生じます。
Q
発生した数理計算上の差異はどのように費用処理するのか?
A
日本基準においては、原則として各期の発生額について、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理します。費用処理されていない部分は、未認識数理計算上の差異として管理します。
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