簡便法から原則法への移行

簡便法から原則法への移行時のポイントを説明します。

退職給付会計では、従業員数が300人未満の小規模企業等に対して認められている簡便法に対して、会計基準に定められている原則的な方法を原則法といいます。両者の大きな違いは、簡便法が退職給付債務を計算時点の給付額等から計算するのに対して、原則法は将来を予測して計算するという点です。

そのため、原則法は複雑な計算が必要となり、外部委託を行うことが一般的で、事前の準備が必要となります。金額的な影響も大きく、簡便法による退職給付債務に比べ原則法による退職給付債務の方が大きくなるケースが多いです。簡便法と原則法による退職給付債務の差異が発生する要因についても理解し、移行時や移行後のポイントを押さえましょう。

IICパートナーズでは、原則法に移行する際にお困りのことや疑問を解決する無料相談も行っております。ぜひお気軽にご相談ください。

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簡便法から原則法への移行

原則法は通常、従業員数300人以上の企業で用いられます。従業員数300人未満の小規模企業で用いられる簡便法と違い、数理的な手法がベースになっているため、確率・統計の専門家であるアクチュアリーが在籍する企業に計算を委託します。

一般的には以下のようなケースで簡便法から原則法への移行が必要となります。

・採用により従業員数が300名以上となった。
・合併により従業員数が300名以上となり、退職金制度も統合した。

原則法による退職給付債務の計算は、外部の計算機関に依頼することが一般的です。外部の計算機関が計算する際には「諸規程」や「人事データ」、「計算の前提」が必要となり、計算機関からの資料提供依頼や計算前提の提案に基づき、企業が準備および指示を行います。

 

諸規程

・退職金規程
・確定給付企業年金規約(確定給付企業年金制度を実施している場合)
・就業規則(定年年齢、退職金規程等が参照している箇所の把握)
・給与規程(退職金が給与比例制の場合)
・その他、必要に応じ退職給付会計の対象となる給付がわかる資料

 

人事データ

・従業員データ
・年金受給者データ
・退職者データ

 

計算の前提

・評価基準日とデータ基準日
・期間帰属方法
・割引率
・死亡率
・退職率
・予想昇給率
・一時金選択率
・予想再評価率
・長期期待運用収益率

 

この他、会計処理を行うにあたっては退職給付債務を認識する時点について、決めておく必要があります。一般的に、採用によって従業員数が増加したことにより原則法へ移行する場合は「増加した年度の期首あるいは期末時点」、会社の合併等により原則法へ移行する場合は「合併等のあった日」とすることが多いです。

一概にはいえませんが、簡便法による退職給付債務に比べ原則法による退職給付債務の方が金額が大きくなるケースが多いかと思います。簡便法と原則法で差異が発生する要因を、最終給与比例制でかつ簡便法の退職給付債務として自己都合要支給額を採用している場合を例にまとめたものが下表になります。

差異要因 原則法による退職給付債務に与える影響 説明
給付カーブ  簡便法:給付カーブ(給付算定式)を基準に評価
原則法:期間定額基準:入社~予測退職時点まで均等に費用評価
             (給付カーブが下に凸の場合、簡便法より退職給付債務は増加)
             給付算定式基準:簡便法と同じく給付カーブを基準に評価、著しく後加
             重のケースで均等補正した場合は簡便法より退職給付債務は増加   
自己都合乗率  簡便法:評価基準日時点の自己都合乗率により評価
原則法:予想退職日時点の自己都合乗率により評価
昇給の見込み 簡便法:評価基準日時点の基準給与により評価(将来の昇給を見込まない)
原則法:予想退職日時点の基準給与により評価(将来の昇給を見込む)
新規入社者 勤続3年未満での退職は退職金の支給なしのケースでは、評価基準日時点で勤続3年未満の者について、
簡便法:0で評価
原則法:適宜補正された給付カーブに基づき、評価基準日時点での退職給付債務
             を評価
割引率 簡便法:割引計算(現価計算)は行わない
原則法:予想退職日時点から評価基準日時点まで割引計算(現価計算)を行う
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簡便法を採用していた企業が原則法に移行する際、簡便法による退職給付債務と原則法による退職給付債務の差額は、一時の損益として処理することになります。

なお、一時の損益は「特別損益」または通常の退職給付費用と同様「売上原価または販売費および一般管理費」で認識することが考えられます。移行にあたっては、事前に監査法人に確認した上で、金額の重要性も考慮し判断します。
また、その際の仕訳(個別財務諸表)は次の通りとなります。

【仕訳例】

簡便法による退職給付債務:15,000
原則法による退職給付債務:20,000
差額:5,000

(借方)退職給付費用
5,000
(貸方)退職給付引当金
5,000

原則法移行後の初回決算を迎えるにあたって検討しなければならない項目としては次の3点があります。

1. 計算前提の見直しサイクル

原則法による退職給付債務の計算は、将来の給与の昇給(予想昇給率) や退職する確率(退職率) 等を見込み、さらに割引率を使用して現時点まで割引計算して求めることになります。

これらの計算前提は、原則法移行時に従業員データや金利等の各種データを用いて算定しますが、これらは時間の経過とともに実態と乖離が生じます。そのため、一定のサイクルで最新のデータを使用して見直すことが必要となります。このサイクルをどの程度にするかを原則法移行後の初回決算までに決定する必要があります。

2. 割引率の10% 重要性基準の取扱い

日本基準において、計算前提は「退職給付債務(あるいは当期の損益) に重要な影響があると認められる場合は再検討し、それ以外の場合は見直さないことができる」とされておりますが、割引率だけ重要な影響の程度が記載されています。

具体的には、「前期末に用いた割引率により算定した場合の退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときには、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならない」とされており、これが「10%重要性基準」と呼ばれるものです。

「10%重要性基準」を適用する場合は、継続的に重要性を判定して割引率を決定することになるため、原則法に移行した企業は初回決算までに「10%重要性基準」を適用するかどうか決めておく必要があります。

3. 数理計算上の差異の費用処理方法

原則法移行後の初回決算においては、数理計算上の差異が初めて発生することになります。この数理計算上の差異について、その費用処理方法を決定する必要があります。費用処理方法には、いくつかの方法が認められており、各企業が退職給付費用や実務への影響などを考慮して、決めることになります。

・償却開始時期(例:翌期から償却)
・償却年数(例:平均残存勤務期間以内の一定の年数)
・償却方法(例:定額法)

 
【監修】株式会社IICパートナーズ

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