退職給付会計の関連基準のまとめ

公開日:2021年2月26日
退職給付会計は会計基準の他、適用指針や実務対応報告といった複数の関連基準で構成されています。
このコラムでは、それぞれの基準で取り扱っている内容や特徴についてまとめました。退職給付に関する会計処理の根拠を確認する際の参考にしてください。
企業会計基準
退職給付に関する会計基準(企業会計基準第26号)
退職給付会計の基礎となる基準です。範囲や用語、会計処理、開示などの大枠が示されており、すべての関連基準のベースとなっています。注釈も実務上、重要な事項が記されており、この後に紹介する「退職給付に関する会計基準の適用指針」や「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」においてたびたび引用されています。
退職給付会計の各基準は、退職一時金制度や確定給付企業年金制度といった確定給付制度における会計処理等に紙面の多くを割いています。一方、確定拠出年金のような確定拠出制度に関する会計処理や開示については、この会計基準の一部で規定されているだけで、以降で紹介する基準(制度変更時の会計処理に関する事項を除く)の中でもあまり出てきません。
会計基準は企業会計基準委員会の下記ページからご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/accounting_standards.html
企業会計基準適用指針
退職給付に関する会計基準の適用指針(適用指針第25号)
会計基準で示した大枠の規定を実務レベルで適用するために、詳細について規定したものになります。会計処理の方法も仕訳と共に豊富な設例で説明されています。退職給付会計に特有の「ワークシート」や退職給付債務や勤務費用の「計算過程表」はこの設例の中で登場し、実務でも一般的に用いられています。
退職給付債務等の計算にあたり、小規模企業等では簡便な方法を使えるということが、会計基準において規定されていますが、いわゆる「簡便法」という用語はこの適用指針の中で出てきます。同時に対比する形で「原則法」という用語が(やや唐突に)登場し、退職給付債務等の計算方法の違いを「簡便法」や「原則法」と呼ぶ根拠となっています。
先の会計基準とこの適用指針で、制度変更等の特殊なケースを除いた取り扱いが網羅されています。一般的に、退職給付会計基準といえば、この2つの基準を指していると考えてよいでしょう。
退職給付制度間の移行等に関する会計処理(適用指針第1号)
退職一時金制度や確定給付企業年金制度、確定拠出年金といった退職給付制度間の移行だけではなく、増額や減額の改訂、制度の終了、大量退職の取り扱いについて示した基準です。こちらも具体的な設例がワークシートや仕訳と共に解説されています。
「退職給付に関する会計基準の適用指針(適用指針第25号)」よりも番号が古いのは、先の2つの退職給付会計基準は2012年に大幅に改正されて新たに公表されたものですが、この適用指針は旧会計基準の時代に公表され、そのまま踏襲されているからです。
制度変更時の実務においては、次の「退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱い」と合わせて参照しましょう。
適用指針は企業会計基準委員会の下記ページからご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/implementation_guidance.html
実務対応報告
退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱い(実務対応報告第2号)
先の「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」で質問が多かったとされる点について、Q&A形式で取り扱いを示したものです。制度変更等を行う際の会計処理のタイミングなど、実務において論点になりやすい点が説明されています。
リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(実務対応報告第33号)
法改正により2017年から実施が可能となったリスク分担型企業年金の会計処理を示したものです。リスク分担型企業年金は、確定給付企業年金制度でありながら、年金財政の状況に応じて給付を調整する形で加入者もリスクを負担するため、確定拠出年金に似た性質を持っています。
退職給付会計上、確定給付制度と確定拠出制度のどちらに分類されるかが、企業の会計処理を大きく分けることになります。この基準の公表によってリスク分担型企業年金のうち、企業が事前に規約に定めた掛金の他に拠出義務を実質的に負っていないものは、確定拠出制度に分類することが示され、掛金は費用処理できることとなりました。

債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(実務対応報告第34号)
金利の低下により国債の利回りがマイナスになってしまったため、退職給付債務の計算においてマイナスの割引率を使用することが適切かどうかという議論が生じました。この基準により、参照する債券の利回りがマイナスとなった場合、「下限としてゼロを利用する方法」と「マイナスの利回りをそのまま利用する方法」のどちらも認められました。
適用時期は「2017 年3 月31 日に終了する事業年度から2018 年3 月30日に終了する事業年度まで」とされていましたが、次の実務対応報告第37号により適用の終了が「当面の間」に延長されています。
実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い(実務対応報告第37号)
債券の利回りがマイナスとなる場合の割引率は、「下限としてゼロ」と「マイナスの利回りをそのまま」のいずれも認めた実務対応報告第34号の適用の期限を延長するものです。具体的には、「退職給付債務の計算に重要な影響を及ぼさず、当該取扱いを変更する必要がないと当委員会が認める当面の間」とされています。
実務対応報告は企業会計基準委員会の下記ページからご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution.html
数理実務関連
退職給付会計に関する数理実務基準/退職給付会計に関する数理実務ガイダンス
これまで紹介した企業会計基準委員会が公表した会計基準等とは違い、公益社団法人日本年金数理人会と公益社団法人日本アクチュアリー会が合同で公表したものであり、所属する会員(年金数理人・アクチュアリー)が企業等からの依頼により専門的な業務を行うにあたって参照すべき資料となります。
2つの文書で構成されており、「退職給付会計に関する数理実務基準」は遵守すべきルールで、「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」は数理的な実務を説明する教育的資料という位置づけです。後者のガイダンスでは退職給付債務等の計算の前提や計算方法の詳細が、専門用語や数式を用いて説明されています。割引率の決定で用いられる「イールドカーブ」が登場するのもこのガイダンスです。一方で、会計処理や開示については、この資料の対象とするところではないため扱われていません。
原文は公益社団法人日本年金数理人会の下記ページからご覧ください。
http://www.jscpa.or.jp/database/account/
まとめ
以上、退職給付会計に関連する基準について、その特徴と共にご紹介しました。会計基準や適用指針、実務対応報告の末尾には、「結論の背景」として論点や適用する上での考え方も記載されていますので、目を通すことで基準の理解がさらに深まることでしょう。最後に、ご紹介した基準の一覧を表形式でまとめました。参考となれば幸いです。
名称 | 基準番号 | 概要 |
---|---|---|
退職給付に関する会計基準 | 企業会計基準第26号 | 退職給付会計の大枠 |
退職給付に関する会計基準の適用指針 | 適用指針第25号 | 退職給付会計の実務のベース |
退職給付制度間の移行等に関する会計処理 | 適用指針第1号 | 制度間の移行/増額や減額の改訂/ 制度の終了/大量退職 |
退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱い | 実務対応報告第2号 | 上記の会計処理のタイミング |
リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い | 実務対応報告第33号 | リスク分担型企業年金を確定拠出制度に 分類 |
債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算 における割引率に関する当面の取扱い |
実務対応報告第34号 | 割引率の「下限としてゼロ」と「マイナス の利回りをそのまま」を容認 |
実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い | 実務対応報告第37号 | 上記の適用を当面の間に延長 |
退職給付会計に関する数理実務基準 退職給付会計に関する数理実務ガイダンス |
- | 専門家が遵守すべきルール+実務を説明 する教育的資料 |
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※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。
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この記事を書いた人 日本アクチュアリー会準会員 / 1級DCプランナー(企業年金総合プランナー) 辻󠄀 傑司 |
世論調査の専門機関にて実査の管理・監査業務に従事した後、2009年IICパートナーズに入社。 退職給付会計基準の改正を始めとして、原則法移行やIFRS導入等、企業の財務諸表に大きな影響を与える会計処理を多数経験。 |