退職給付費用とは、将来従業員に支払う退職金や年金に備えて、当期の負担分として計上する会計上の費用を指します。
この費用は複数の要素から構成されており、その計算方法は複雑です。
退職給付費用と関連用語との違いや、具体的な計算方法、会計処理について、会計実務の担当者にもわかりやすく解説します。
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退職給付費用とは?将来支払う退職金に備えるための会計上の費用
退職給付費用とは、従業員の労働の対価として将来支払われる退職金や企業年金のうち、会計期間である当期に発生したと認識される費用のことです。
退職金は従業員の退職時に一括で支払われますが、会計上はその負担を退職時ではなく、従業員が労働を提供した期間にわたって費用として計上することになります。
なぜかというと、退職給付は従業員の長年の勤務に対する後払い的な性質をもっており、退職給付会計の考え方に基づいて企業の収益と費用を適切に対応させるためです。
この費用は損益計算書に計上され、企業の期間損益を計算するうえで重要な要素となります。
退職給付費用と退職給付債務の明確な違い
退職給付費用と退職給付債務は、退職給付会計における重要な概念ですが、その性質は大きく異なります。
退職給付費用が特定の会計期間に発生した「費用(フロー)」であるのに対し、退職給付債務は特定の時点において企業が将来支払うべきと予測される「負債(ストック)」の総額を示します。
この二つの違いを理解することは、企業の財政状態と経営成績を正しく把握する上で不可欠です。
費用として計上される「退職給付費用」
退職給付費用は、損益計算書に計上される会計上の費用項目です。
これは、従業員の当期の労働サービス提供によって生じた、将来の退職給付の増加額を主な構成要素とします。
会計上の費用として計上された金額は、企業の利益を減少させる要因となります。
なお税務会計においては、この退職給付費用がそのまま損金として認められるわけではなく、退職一時金や企業年金の掛金など、現金の支出額を損金算入します。
したがって、会計上の費用と税法上の損金は一致せず、この差異は税効果会計により調整されます。
将来支払うべき負債を示す「退職給付債務」
退職給付債務とは、将来支払うと見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)から、従業員が既に提供した労働サービスに対応する部分を抽出し、それを現在価値に割り引いて計算したものです。
この割引計算には、国債や社債の利回りなどを元に算定した割引率が用いられます。
また、昇給率や退職率といった様々な予測値に基づいて計算が行われます。 退職給付債務は決算日時点における企業の退職給付に関する将来の支払義務の総額を示す指標と言えるでしょう。

貸借対照表に計上される「退職給付引当金」との関係
退職給付引当金は、退職給付債務そのものではなく、貸借対照表に負債として計上される勘定科目です。
この引当金は、計算された退職給付債務から、その支払いのために積み立てられている年金資産の時価を控除した額が基礎となります。
さらに、数理計算上の差異や過去勤務費用といった未認識項目を調整した結果が、最終的に貸借対照表上の「退職給付引当金」または資産超過の場合は「前払年金費用」として計上されます。
つまり、退職給付引当金は、退職給付債務と年金資産の差額をベースに、会計基準で定められた調整を加えた後の金額を示します。

退職給付費用を構成する5つの要素の内訳
退職給付費用は単一の要素で決まるのではなく、性質の異なる複数の項目から構成されています。
その内訳は、主に「勤務費用」「利息費用」「期待運用収益」「数理計算上の差異の費用処理額」「過去勤務費用の費用処理額」の5つです。
これらの各要素を合算または減算することによって、当期の損益計算書に計上すべき退職給付費用が算出されます。
各構成要素の内容を理解することが、退職給付費用の全体像を把握する鍵となります。
勤務費用:当期の労働の対価として発生する退職給付
勤務費用とは、従業員が当期に提供した労働サービスの対価として、新たに発生したと認識される退職給付の金額です。
これは、将来支払われる退職給付見込額のうち、当期の勤務によって増加した分を現在価値に割り引いて計算されます。
本質的には、給与や賞与と同様に従業員の労働に対するコストであり、退職給付費用の最も基本的な構成要素です。
従業員が1年間勤務することで、将来受け取る退職給付の権利がその分だけ増えるという考え方に基づいており、退職給付費用を構成する中で中核的な費用項目といえます。
利息費用:時間経過によって増加する退職給付債務の利息
利息費用とは、期首時点の退職給付債務に対して、期末までの時の経過によって発生する調整額です。
退職給付債務は将来の支払額を現在価値に割り引いて計算されているため、決算日が1年経過すると支払日までの期間が1年短縮され、その分だけ割引計算の影響が小さくなり、債務の額は増加します。
この増加分が利息費用であり、実質的には時の経過に伴う負債の利息に相当します。
計算式としては、期首の退職給付債務に割引率を乗じて算出されます。
この利息費用とは、退職給付費用の加算項目として扱われます。

期待運用収益:年金資産の運用から得られると期待される収益
期待運用収益は、企業が退職給付の支払いに備えて積み立てている年金資産の運用から、当期中に得られると合理的に期待される収益額を指します。
この収益は退職給付の支払原資となるため、会計上は退職給付費用から控除する形で処理されます。
計算は、期首の年金資産の額に、長期的な観点から設定された期待運用収益率を乗じて行われます。
実際の運用成果ではなく、あくまで期首時点での期待値を用いる点が特徴です。
これにより、年金資産の短期的な時価変動が期間損益に与える影響を平準化する効果があります。
数理計算上の差異の費用処理額:予測と実績のズレを当期費用に配分した額
退職給付債務は将来のキャッシュフローを予測するために、退職率や昇給率などの一定の予測(前提条件)を用いて計算します。また、現在価値を見積もるために割引率を用いて割引計算を行います。
数理計算上の差異とは、この予測と実績との差額や、前提条件の変更によって発生する差額、及び年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差額などを指します。
この差異が発生した場合、一括で損益として認識するのではなく、未認識とすることが認められています。
未認識とした場合、一定の年数(例えば従業員の平均残存勤務期間など)にわたって規則的に償却し、毎期の退職給付費用に加算または減算します。
この償却された金額が「数理計算上の差異の費用処理額」です。
過去勤務費用の費用処理額:制度変更による増減額を当期費用に配分した額
過去勤務費用とは、退職給付制度の改定や新規導入によって生じた退職給付債務の増減額のことです。
例えば、給付水準の引き上げなどを行うと、過去の勤務期間分についても追加の債務が発生します。
この増減額は、発生時に一括で費用処理するのではなく、従業員の平均残存勤務期間内の一定の年数で規則的に償却することが認められています。
この償却額が「過去勤務費用の費用処理額」として、毎期の退職給付費用に加算または減算されます。
退職給付費用の計算方法をわかりやすく解説
退職給付費用の計算は、これまで解説した複数の構成要素を合算して行われるため、非常に複雑なプロセスを伴います。
実務では、これらの計算を正確に行うために、専門的な知識を持つ信託銀行やコンサルティング会社が作成する年金数理計算に関する報告書や、専用のワークシートが利用されるのが一般的です。
ここでは、その算出の基礎となる考え方と、具体的な計算式について解説します。
退職給付費用の基本的な計算式
退職給付費用の計算は、5つの構成要素を足し引きすることで行われます。 基本的な計算式は以下の通りです。
『 退職給付費用 = 勤務費用 + 利息費用 - 期待運用収益
± 数理計算上の差異の費用処理額 ± 過去勤務費用の費用処理額 』
勤務費用と利息費用は費用として加算され、期待運用収益は費用を減らす効果があるため減算されます。
数理計算上の差異と過去勤務費用の費用処理額は、その内容によって加算または減算のいずれかになります。
この計算式に基づいて、各要素を個別に算出し、それらを統合することで最終的な退職給付費用が確定します。
退職給付費用に関する会計処理と仕訳例
算出された退職給付費用は、会計帳簿に記録するための会計処理が必要です。
この処理は、仕訳という形式で行われ、適切な勘定科目を用いて企業の財務諸表に反映されます。
退職給付費用の計上から、年金掛金の支払いや従業員への退職一時金の支払いまで、一連の取引にはそれぞれ特有の仕訳が存在します。
ここでは、具体的な仕訳例を交えながら、基本的な会計処理の流れを解説します。
【設例】退職給付費用を計上する際の基本的な仕訳
期末の決算整理仕訳として退職給付費用を計上する場合、最も基本的な仕訳は、借方に「退職給付費用」、貸方に「退職給付引当金」を計上します。
例えば、費用が1,000円であれば「(借方)退職給付費用1,000/(貸方)退職給付引当金1,000」となります。
- (借方)退職給付費用
- 1000
- (貸方)退職給付引当金
- 1000
企業年金制度があり、年金の掛金を外部に支払う際は、貸方の勘定科目が現金預金となり、「(借方)退職給付引当金/(貸方)現金預金」という仕訳で処理します。
従業員の退職時に退職一時金を支払う場合も同様に、引当金を取り崩す形で「(借方)退職給付引当金/(貸方)現金預金」と記録します。
- (借方)退職給付引当金
- 1000
- (貸方)現金預金
- 1000
年金資産が退職給付債務を上回る場合は、資産として「前払年金費用」が計上されることもあります。

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退職給付費用等の会計基準におけるポイント
退職給付に関する会計基準は複雑ですが、すべての企業が同じ原則的な方法で会計処理を行うわけではありません。
特に中小企業においては、要件を満たせば実務的な負担を考慮した簡便法が認められています。
また、近年導入が進んでいる確定拠出年金制度は、従来の確定給付制度とは会計処理が異なります。
連結決算書を作成する企業にとっては、退職給付に関する詳細な注記情報も重要です。
まとめ
退職給付費用は、将来の退職金支払いに備えて、従業員の勤務期間にわたって規則的に計上される会計上の費用です。
計算は勤務費用や利息費用など複数の要素で構成されます。
従業員が退職する際の退職金や年金掛金といった現金の支払いは、会計上、すでに負債として認識されている退職給付引当金の取り崩しとして処理されることになります。
このように、実務においては現金の動きと費用の認識タイミングが異なる点を理解しておくことが重要です。
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