退職給付会計において原則法を適用していると、退職金規程や企業年金規約の改訂により、給付水準などが変わって退職給付債務が変動することがあります。これにより発生するのが過去勤務費用です。
個別財務諸表において負債計上する退職給付引当金は「退職給付債務-年金資産-未認識項目」で算出されますが、過去勤務費用はこの未認識項目の一つです。ここでは過去勤務費用が発生するケースや費用処理方法などについて説明します。
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1:過去勤務費用の概要
過去勤務費用とは、退職給付水準の改訂等によって発生した退職給付債務の増加または減少部分のことです。
また、「過去勤務費用のうち当期純利益を構成する項目として費用処理されていないもの」を未認識過去勤務費用といいます。
2:過去勤務費用が発生するケース
過去勤務費用が発生するのは次のような場合です。
- 給付水準の引き上げや引き下げ(給与水準の変動による退職給付債務の変動を除く)
- 給与比例制からポイント制への移行など給付体系の変更
- 新たな確定給付型制度の導入 など
このようなケースでは、将来の退職時点で見込まれる給付の水準が変わるため、退職給付債務が変動します。制度改訂日時点で退職した場合の要支給額が変わらなくても、将来の給付水準が変わると退職給付債務が変動し、過去勤務費用が発生することに注意が必要です。なお、給付水準の引き下げによって退職給付債務が減少した場合には、マイナスの過去勤務費用が発生します。
下記の図は、将来の退職給付の水準の引き上げによって、制度改訂日時点における退職給付債務が600から660に増加した場合のイメージを表しています。

3:貸借対照表と損益計算書上の扱い
過去勤務費用は、個別財務諸表では貸借対照表(B/S)上も損益計算書(P/L)上もすぐに認識をせずに、遅延認識することが認められています。一方、連結財務諸表はP/L上の遅延認識は認められていますが、B/S上は即時認識する必要があります。この場合、過去勤務費用が発生した年度において退職給付に係る負債およびその他の包括利益で認識し、徐々にP/L純利益に振り替える(リサイクルする)ことによって、P/Lでは遅延認識することになります。
なお、P/L上、遅延認識することが容認されているのは、会計用語でいう「費用収益対応の原則」に基づくものです。 例えば、給付水準の引き上げを行なった場合、従業員の勤労意欲が将来に亘って向上し、将来獲得される収益が増加する可能性があります。
増加が予想される収益が計上される将来期間において費用も計上する(費用収益対応の原則)ため、制度改訂日時点で既に発生している費用の遅延認識が認められているのです。
4:費用処理年数
費用処理年数は次の1~3の方法が認められています。発生年度に一括で費用処理するほか、遅延認識する場合には平均残存勤務期間に基づいて費用処理する必要があります。選択した方法は継続的に適用する必要があります。実態としては、数理計算上の差異の費用処理年数と合わせて、3の方法を採用されている会社が多いようです。
- 発生年度に一括費用処理
- 平均残存勤務期間
- 平均残存勤務期間内の一定の年数
5:費用処理の開始時期
過去勤務費用は、制度改訂日から月割で費用処理を行います。同じく未認識項目である数理計算上の差異の場合は、発生年度もしくは翌年度から年度単位で費用処理するので、混同しないように注意が必要です。なお、制度改訂日とは「労使合意の結果、規程や規約の変更が決定され周知された日」とされています。
6:費用処理方法
定額法と定率法いずれも認められていますが、定率法は推奨されていません。
定額法は、発生額を費用処理年数で均等に按分して費用処理する額を決定する方法です。一方、定率法は、費用処理期間以内で発生金額のおおむね90%が処理されるように、一定率を残高に乗じて費用処理していく方法です(5年の場合は0.369、10年の場合は0.206)。
定額法の算定例
- 過去勤務費用発生額:60(制度改訂日は当期首であったとする)
- 費用処理年数:6年
→当期の過去勤務費用の費用処理額10=60÷6年
7:仕訳例
過去勤務費用の発生時や費用処理時の仕訳について、具体的な数値例で解説します(簿記の知識が必要になります)。
ここでは例として、制度改訂時に退職給付債務が増加して過去勤務費用が100発生し、定額法により5年間で費用処理するケースを用いて説明します。なお、税効果会計は考慮しておりません。
過去勤務費用が発生したとき
個別財務諸表上はB/SもP/Lも遅延認識するため仕訳不要です。一方、連結財務諸表上はB/Sのみ即時認識するため、その他の包括利益を計上して、負債を増加させます。
(連結財務諸表)
- (借方)退職給付に係る調整額
【その他の包括利益】 - 100
- (貸方)退職給付に係る負債
- 100
過去勤務費用を費用処理するとき
個別財務諸表では費用処理すると同時に引当金を増加させますが、連結財務諸表ではその他の包括利益の調整を行って費用処理します。
(個別財務諸表)
- (借方)退職給付費用
- 20
- (貸方)退職給付引当金
- 20
(連結財務諸表)
- (借方)退職給付費用
- 20
- (貸方)退職給付に係る調整額
【その他の包括利益】 - 20
【監修】株式会社IICパートナーズ
アクチュアリー・年金数理人や公認会計士が在籍する退職給付会計のプロフェッショナル集団。 |
過去勤務費用に関するよくある質問
Q
過去勤務費用とは?
A
退職給付水準の改訂等によって発生した退職給付債務の増加又は減少部分のことです。年金資産の分配や確定拠出年金制度への資産移換といった支払を伴う退職給付債務の減少は過去勤務費用には含まれません。
Q
発生した過去勤務費用はどのように費用処理するのか?
A
日本基準においては、原則として各期の発生額について、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理します。費用処理されていない部分は、未認識過去勤務費用として管理します。
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