定年延長時の退職給付制度に関する検討事項
目次
- 1 :退職給付制度の設計
- 2 :退職給付会計への影響
- 3 :退職給付会計の実務
定年延長を実施する場合には、シニア層のモチベーション維持のための施策や給与体系など様々な検討事項があるかと思います。そのなかで、今回のコラムでは退職給付制度においてどのような検討事項があるか紹介していきたいと思います。
なお読みやすさを考慮し、延長前の定年年齢(旧定年)を60歳、延長後の定年年齢(新定年)を65歳としたいと思います。
1.退職給付制度の設計
定年延長を検討中の企業の場合、現在は何らかの再雇用制度を実施されていることも多いかと思います。再雇用制度の場合、定年を迎えた時点で一旦退職したことになるため、退職給付制度については旧来のままになっていることがほとんどかと思います。
もし定年延長を行った場合、退職給付制度についても見直す機会が生じますが、大きく分けて3点の検討課題が挙げられます。
【1】退職金の支給時期
再雇用制度の場合には、60歳時点で一旦退職したことになりますので、その場で退職金が支給されることかと思います。定年延長を行うと、通常の場合、65歳まで支給時期が延長されることになります。
このとき、住宅ローンの返済等、従業員のライフプランに支障が生じることも考えられますので、60歳で一旦退職金を支払うこと(いわゆる打ち切り支給)が必要か否か、検討事項となります。
【2】定年延長後の給付水準
退職給付制度では勤続年数の増加に応じて、給付金額を積みましていくことが多いかと思います。
60歳到達後の勤続について、給付金を積みますか否か、積み増す場合、水準をどの程度にするか検討事項となります。
【3】旧定年到達後の退職事由
自己都合退職時の削減など、退職事由により給付金額に差を設けている制度は多いかと思います。
これをそのまま適用すると、例えば60歳到達後に自己都合退職した場合、それまでは満額の退職金が支給されていたところ、定年延長後は削減されてしまうことになります。
このため、60歳到達後の退職は定年扱いとすることも考えられます。
2.退職給付会計への影響
定年延長を行うと、多くの場合退職給付会計へ影響を与えます。制度の変更により退職給付債務に差額が生じた場合、過去勤務費用として認識します。また変更後の勤務費用等も変動することから、退職給付費用が変わっていきます。
これらの変動は人件費に関わりますので、経営判断の材料としても、以下の影響額について予め試算を行い前述の制度内容とともに十分に検討することが望ましいかと思われます。
【1】定年を延長したことによる影響
定年延長を行い、打ち切り支給でない場合は、キャッシュフローが後退しますので、割引率や期間帰属の影響を受け、退職給付債務等が変動します。
【2】給付設計を変更したことによる影響
給付の見直しに応じて退職給付債務等が変動します。給付設計のほか、期間帰属方法により影響度合いが異なります。
3. 退職給付会計の実務
退職給付債務計算については、実務上いくつかの選択肢が生じますので、どのような方法をとるか検討することになろうかと思います。
これらは計算委託先や監査法人とよく相談して決定していくことになろうと思います。
【1】過去勤務費用の認識日
過去勤務費用については、原則として、改訂日(労使合意の結果、規程や規約の変更が決定され周知された日)現在で測定、認識することとされていますが、実務上施行日で認識することもあります。
また、改定のタイミングによっては決算期末等にすることもあります。
【2】過去勤務費用の算定方法
過去勤務費用については、原則として改訂日にて変更前後の退職給付債務の差額を計算することになります。
しかし多重に計算するとコストがかかることから、例えば、変更前については期末決算数値を補正(いわゆる転がし計算)にて対応することもあります。
【3】改訂前後の計算前提
定年延長した場合には、退職率や予想昇給率については、60歳以降の実績がないことから、これらをどのように設定するかという課題が生じます。
また、給付設計に応じて、60歳以降の給付についての期間帰属をどうするかという課題が生じます。
【4】会計処理について
原則的には改訂日から過去勤務費用の償却を開始し、勤務費用等を洗い替えることになりますが、実務上困難である場合には簡略化することも考えられます。
これらの課題について、次回以降のコラムではもう少し掘り下げて行きたいと思います。
なお、弊社では定年延長のシミュレーションをパッケージ化したサービスを開始しております。皆様のご検討のお役に立てますと幸いです。
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