働き方改革への退職給付制度の対応

目次
- 1 :働き方改革の概要
- 2 :退職給付制度への対応事項
「働き方改革」と聞くと、「長時間労働の是正」「柔軟な働き方の実現」「同一労働同一賃金」などを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
今回は、これら働き方改革の主要テーマではなく、今後企業にとって検討が必要になるであろう「退職給付制度への対応」について説明します。
1.働き方改革の概要
2016年9月、働き方改革の実現を目的とするために「働き方改革実現会議」が発足しました。安倍総理自らが議長となり、関係閣僚、労働界と産業界のトップ、有識者が参加して、様々な分野について、具体的な方向性を示すための議論が行われました。
その成果として、2017年3月に「働き方改革実行計画」が取りまとめられ、以下の11のテーマが示されました。
<働き方改革実行計画で示されたテーマ> |
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1.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善 2.賃金引上げと労働生産性向上 3.罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正 4.柔軟な働き方がしやすい環境整備 5.女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備 6.病気の治療と仕事の両立 7.子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労 8.雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援 9.誰にでもチャンスのある教育環境の整備 10.高齢者の就業促進 11.外国人材の受入れ |
働き方改革実行計画を受けて、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」(働き方改革関連法案)が国会に提出され、2018年6月に同法案が成立しました。
働き方改革関連法では、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現などが織り込まれており、大企業では2019年4月1日から、中小企業では2020年4月1日から、段階的に対応が必要となっています。
2.退職給付制度への対応事項
働き方改革の中で、特に退職金制度や企業年金制度への対応が必要なテーマとしては、「高齢者の就業促進」および「同一労働同一賃金」が挙げられます。
(1) 高齢者の就業促進への対応
働き方改革の第2弾として、生涯現役時代に向けた雇用改革の検討が進められています。
2019年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2019について」(骨太方針)が閣議決定され、その中で「70歳までの就業機会確保」に向けた法整備が織り込まれています(詳細は次回以降で取り上げます)。
現在、定年年齢を60歳としている企業が多いですが、今後は65歳への定年延長などについて、検討・対応が必要になってくると思われます。
退職金制度や企業年金制度については、60歳定年時に支給する前提で制度が設計されているケースが多いため、仮に定年延長を行う場合には、制度の見直しが必要となります。具体的には、「退職金や企業年金の支給時期をどうするか」「60歳以降の制度設計・給付水準をどうするか」などについて検討が必要となります。
退職金制度・企業年金制度の見直しを行うにあたっては、「税制との関係」「企業年金法令上の取り扱い」「退職給付会計への影響」についても併せて検討が必要となります。
定年延長というと、退職給付債務・退職給付費用が増加すると思われている方も多いですが、実際には減少するケースもありますので、例えば、退職金・企業年金制度で減少した部分の原資を給与の増加に充てるといった対応も考えられます。
なお、確定給付企業年金制度(DB制度)を実施している場合には、仮に60歳以降の給付水準を引き上げたとしても、法令上は給付減額と判定され、労働組合または従業員からの同意が必要となるケースがあるため、留意が必要です。
このように、退職金・企業年金は内容が専門的かつ複雑となりますので、必要に応じて、年金数理人等の専門家を活用しながら見直しを検討するのがよいでしょう。
(2) 同一労働同一賃金への対応
2020年4月(中小企業では2021年4月)以降は、正規労働者と非正規労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差が禁止されます。
基本的な考え方や詳細については、厚生労働省から公表されている「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(同一労働同一賃金ガイドライン)に示されていますが、退職金・企業年金に関しては、原則となる考え方が示されていません。
現状は、退職金・企業年金は正規労働者(正社員)のみを対象としているケースが多いため、今後は非正規労働者への退職金・企業年金の取り扱いについて検討が必要になってくると思われます。
なお、2019年2月に、契約社員に対して退職金を一切支給しないことは不合理(違法)とする判決(メトロコマース事件、東京高裁)がありましたので、当該判例等を踏まえながら、個別に検討・対応していくことになるのではないでしょうか。
仮に非正規労働者に退職金・企業年金を適用(導入)するとした場合には、「制度設計・給付水準をどうするか」「制度導入前の勤続期間の取り扱いをどうするか」といった検討が必要になります。
この場合、定年延長とは異なり、退職給付債務・退職給付費用は必ず増加するため、財務上のインパクトも踏まえながら検討を進めることが有効でしょう。
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