定年延長に伴う退職給付制度見直しのポイント
目次
- 1 :退職金の支給時期
- 2 :退職給付
- 3 :旧定年到達後の退職事由
- 4 :その他留意事項
前回のコラムでは定年延長を行うとき、退職給付制度においてどのような検討事項があるか紹介しました。今回のコラムでは退職給付制度の設計についてもう少し掘り下げてみたいと思います。
なお、読みやすさを考慮し、延長前の定年年齢(旧定年)を60歳、延長後の定年年齢(新定年)を65歳としています。また、退職一時金制度だけでなく、確定給付企業年金(DB)や企業型確定拠出年金(DC)を含めて「退職給付制度」と表現しています。
1.退職金の支給時期
再雇用制度の場合には、60歳時点で一旦退職したことになりますので、その場で退職金が支給されることかと思います。定年延長を行うと、通常の場合65歳まで支給時期が延長されることになります。
したがって、60歳で一旦退職金を支払うこと(いわゆる打ち切り支給)が必要か否か検討することが多いかと思います。
【1】65歳まで支払いを延長
一般的には65歳まで支給を延長することが多いかと思われますが、退職金の支給時期が後退することになり、従業員にとってはライフプランを変更する必要が出てくるかもしれません。
【2】60歳で支給(打ち切り支給)
打ち切り支給は、例えば旧定年を境に給与が減額される場合等、住宅ローンの繰り上げ返済にあてて生活費を補填するなど、従業員にとっては一定のニーズがあります。
税制面では、打ち切り支給について退職所得とみなされるためには、「相当の理由があると認められる場合」というのが要件となっており、もし退職所得とみなされなかった場合は税負担が大きいため、税務署等、関係機関への事前照会が必要と思われます。例えば、定年延長以降に入社した従業員へ打ち切り支給を行った場合、退職所得と認められないというケースもあるようです。
なお、例えば再雇用制度との選択性を可能にしたり、退職と関係なく受領が可能なDCプランと組み合わせたりすることにより、打ち切り支給と同等の制度を実現することも考えられます(DCプランから老齢給付金として支給される一時金は、退職所得とみなされます)。
2.退職給付
退職給付制度では勤続に応じて、給付金額を積み増していくことが多いかと思います。60歳到達後の勤続について給付金を積み増すか否か、積み増す場合に水準をどの程度にするか検討することになります。
【1】従来どおり積み増し
退職給付制度を変更せず、従来どおり支給率(額)の増加やポイントの増加を行います。給与比例の場合は、例えば60歳到達時点の給与を適用するか、退職時の給与を適用するかなど検討事項になろうかと思われます。
【2】積み増しの程度を変更
ポイント制度の場合は、例えば年間に付与されるポイントに一定率を乗じるなど、ポイント付与方法を変更することが考えられます。給与比例(定額制)の場合は60歳以降の給付の伸びを調整した上で、支給率(支給額)を作成します。
60歳時点で給付額を固定した上で、加えて年齢に応じた加算金を設ける場合もあります。
【3】旧定年で固定
60歳時点で退職給付金額を固定します。例えば55歳等、特定の年齢で給付額を固定する制度などもありますが、固定期間が長くなってしまうため、この年齢を延長するか否か検討すべきかと思われます。
3. 旧定年到達後の退職事由
自己都合退職時の削減など、退職事由により給付金額に差を設けている制度は多いかと思います。これをそのまま適用すると、例えば60歳到達後に自己都合退職した場合、それまでは満額の退職金が支給されていたところ、定年延長後は削減されてしまうことになります。
このため、60歳到達後の退職は定年扱いとすることも考えられます。
4. その他留意事項
【1】DCの場合
現在の法令上、65歳まで加入期間を延長できる(ただし、60歳以降は60歳前と同一事業所で継続して使用される者に限る)ので検討課題となります。
なお、将来同一事業所要件を撤廃し、70歳まで延長できるように法改正が行われることが見込まれます。
【2】DBの場合
制度設計によっては現在の法令上、給付減額と判定され、従業員への説明や同意の取得が必要となる場合があるので注意が必要です。
DBの受託機関等と相談しながら対応を検討することになります。
【3】給与比例の場合
旧定年到達や役職定年などにより給与が引き下げられる場合、退職給付が減額されないか注意が必要です。
減額される場合には引き下げ前の給与を使用することなど、対応を検討します。
【4】定年年齢の選択性
定年年齢を従業員が選択する制度を設けている会社もあります。例えば、60歳到達時点で、各々がキャリアプランを考え定年年齢を選択します。
次回は退職給付会計(すなわち人件費)への影響を書いていきたいと思います。
なお、弊社では定年延長のシミュレーションをパッケージ化したサービスを開始しております。皆様のご検討のお役に立てますと幸いです。
「定年延長は退職金制度にも財務的な影響を与える?」
あわせて読みたい記事はこちら
関連サービスはこちら
定年延長や人件費の増加は特定のお客様の課題というわけではなく、あらゆるお客様に共通の課題となっています。 |
※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。