国家公務員の定年延長に関する法改正の概要
目次
国家公務員の定年を現行の60歳から2030年度までに65歳に引き上げる関連法案が国会に提出されましたが、検察庁法改正案への野党や世論の反発などを受けて、今国会での成立は見送られ、廃案となりました。
今回の改正案に関しては、秋に想定されている臨時国会への再提出が検討されています。今後民間企業が定年延長を検討する際には、今回の改正案は参考になる部分が多いのではないでしょうか。
今回は、廃案となった「国家公務員法等の一部を改正する法律案」のうち、国家公務員の定年延長に関して見直しが検討されていた部分の概要を解説します。
1.60歳から65歳への段階的な定年の引き上げ
現行60歳の定年を段階的に引き上げ、2030年度に65歳とするものです。(例外として、医師などの一部の職種では66歳~70歳となります。)
現行 | 2022年度 ~2023年度 |
2024年度 ~2025年度 |
2026年度 ~2027年度 |
2028年度 ~2029年度 |
2030年度~ | |
---|---|---|---|---|---|---|
定年 | 60歳 | 61歳 | 62歳 | 63歳 | 64歳 | 65歳 |
定年を65歳に引き上げるのに伴って、定年到達者の再任用制度が廃止され、新たに定年前再任用短時間勤務制度の導入が検討されていました(経過措置として、定年の段階的な引上げ期間中は、定年から65歳までの間、現行と同様の制度が適用されます)。現行の再任用制度は、60歳で定年退職した後に、任期を1年以内で定めて最長65歳まで、フルタイムまたは短時間での勤務を可能にするものです。改正後の再任用制度については「4.高齢期における多様な職業生活設計の支援」で解説します。
2.60歳で役職定年制により非管理職へ
課長、審議官、局長といった管理監督職の職員は、60歳(事務次官等は62歳)の誕生日から次の4月1日(これを「特定日」といいます。)までの間に、非管理職に異動させる「役職定年制」が検討されていました。特例として、役職定年により公務の運営に著しい支障が生ずる場合に限り最長3年間、引き続き管理監督職として勤務させることができるという内容です。
終身雇用がベースの組織構造で管理監督職のポストには限りがあるため、組織の新陳代謝・活力維持を目的として役職定年制を導入することとしていました。
3.60歳に達した職員の給与は7割水準に
職員の給与(俸給月額)は、民間企業の実情を踏まえ、特定日以後に適用される額の7割の水準としていました。役職定年により降任、降給を伴う異動をした職員の給与も、異動前の給与の7割水準で検討されていました。現行の再任用者の給与水準は現役時代の約6割以下の水準ですので、60歳以降定年までの期間は給与が少し引きあがるようなイメージです。
7割水準は当分の間の措置であり、60歳前後の給与水準が連続的なものとなるように、昇任・昇格の基準、昇給の基準、俸給表などについての検討の状況を踏まえながら、定年引上げ完成の前に所要の措置を順次講ずることが検討条項に含まれていました。給与カーブがどのような形になるかはわかりませんが、ざっくりと以下の図のようなイメージでしょうか。
また、給与制度の見直しを検討するにあたり、まずは人事評価制度について今回の改正法の施行日(2022年4月1日)までに見直しを実施することとされていました。国家公務員の人事制度は、現行の年功序列の制度から成果・能力に応じた制度への転換期にあると言えるでしょう。
4.高齢期の多様な働き方への支援
60歳以降における多様な職業生活設計のために、以下の2つの措置が検討されていました。
A)60歳以後定年前に退職した場合に不利にならないようにする退職手当の制度設計
B)定年前再任用短時間勤務制の導入
A) について
当分の間、60歳に達した日以後に退職した職員が不利にならないよう、退職手当は「定年」で退職した場合と同じ支給率で計算されるという内容です。また、60歳以降は給与が7割の水準に減額となりますが、退職手当の額が減額とならないように特例が設けられています。退職手当への影響については、別のコラムで詳しく解説します。
B) について
60歳に達した日以後定年前に退職した職員のうち、希望者は短時間勤務(任期は65歳まで)を可能にする制度を設けるものです。これにより、個人の事情に合わせた多様な働き方が可能になります。 定年前再任用短時間勤務職員の俸給月額は、改正案で新たに追加された俸給表の基準俸給月額(級に応じた額)に、勤務時間の比「(定年前再任用短時間勤務職員の勤務時間)÷(一般職の職員の勤務時間)」を乗じた額となります。
少子高齢化で若年労働力人口が減少する中、意欲と能力のある高齢者が活躍できる場を作ることが、社会全体として課題になっています。
国家公務員の定年延長は先送りになりましたが、民間企業においても定年延長や高齢期の人事制度について検討の必要性が高まってきているのではないでしょうか。
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