基礎から実務までアセットシーリングを極めよう! IICの年金数理人が徹底解説【概要/基礎編】

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基礎から実務までアセットシーリングを極めよう! IICの年金数理人が徹底解説【概要/基礎編】

本コラムでは、弊社セミナー受講後にいただくアンケートや、計算報告の際に、お客様から「むずかしい・ここだけ分からない」とご相談いただくことが多い、IFRSのアセットシーリングを徹底解説しました。
今回は基礎編として、アセットシーリングの概念から、計算方法等を詳しく解説しています。
ぜひ最後までご覧ください。

自社がアセットシーリングが必要か否か分からないという方は、一度チャート診断をしてみてください。

 

 

アセットシーリングとは何なのか教えてください。

村上:「退職給付会計上で認識できる資産の上限を定めているルール」のことを表しており、日本の会計基準には定められておらず、国際会計基準、いわゆるIFRSにおいて定義されているものです。

大まかな内容としては、年金資産が退職給付債務を超えている(以下、積立超過)場合に、日本基準(連結B/S)ではその超過分を全てそのまま会計上認識できますが、IFRSでは、まず資産上限額の計算を行い、超過分がその資産上限額を超えなければ全額計上できますが、資産上限額を超えてしまった場合は、資産上限額までしか会計上認識できないということになります。

また、仮に積立超過となっていないケースでも、確定給付企業年金制度の特別掛金や特例掛金等が設定されている場合には、別途掛金を考慮した場合の積立状況を再度把握して、追加の負債を計上しなくてはいけないこともあります。

【ポイント】
例えば、年金資産が60で退職給付債務が30の場合、日本基準(連結B/S)では60-30の30をそのまま資産計上できます。しかし、IFRSでは仮に資産上限額が20の場合、この20が資産計上できる上限になるという考え方ですね。

 

アセットシーリングは具体的にどういった企業で必要になりますか?

村上:具体的にはこれから挙げる3つ全てに該当する企業は、計算が必要になります。

1:IFRS(国際基準)を適用してる
2:確定給付企業年金制度を実施している
3:積立超過の場合。または、積立超過でないにしても特別掛金や特例掛金等が存在する


上記に挙げた3つ全てに該当する場合、基本的に資産上限額の計算が必要になってきます。日本基準のみ適用している場合や、退職一時金制度だけの企業は、基本的にアセットシーリングを気にする必要はありません。

【ポイント】
退職給付会計において資産や負債の計上が必要な退職金制度は確定給付型の制度です。
そのためアセット(資産)と言っても、確定拠出制度(DC)の資産は関係ないのですね。

アセットシーリングはIFRSのどの文書で定義されていますか?

村上凌

村上:IFRSの退職給付会計の処理が規定されている「IAS第19号従業員給付」で確認できます。またそれより実務的な内容が「IFRIC解釈指針第14号」に記載されています。

それに加えて、日本年金数理人会が公表している「IAS19に関する数理実務基準」にも記載がありますので、この3つでアセットシーリングに関するルールや定義を確認できます。

「IAS19に関する数理実務基準」に記載されている内容に少しだけ触れると、第25項(資産の上限)にて資産の上限は、<制度からの返還>と、<制度へ支払う将来の掛金の減額の形で企業が利用可能な経済的便益の現在価値>という、2つのパーツで構成されていると記載されています。

この2つのパーツは様々な解釈があるので、基本的には計算機関や監査法人と相談しながら進めていきましょう。

 

退職給付債務の担当者は、それらの会計基準を読んで理解できた方が良いのでしょうか?

村上:もちろん理解できるに越したことはないですが、我々実務を行っている人間ですら、100%理解している人は少ないほど難解な部分であることに加えて、資産上限額の2つのパーツは解釈が様々ある為、極力プロの専門家に相談する方が望ましいのではないかなと思います。

一丸:アセットシーリングで何をやっているのかという大きな概念は、担当者に理解いただいていた方が良いと思いますが、細かいところは非常に難しいです。日本年金数理人会が公表している「IAS19に関する数理基準」でも、定義しか書いていないため、結局、IFRSの基準書を見てくださいというような表記になっています。つまり、最終的には原文が英語で記載されているIFRSの基準書を確認する必要がでてきますので、やはり専門家にお任せする方が良いと思います。

退職給付債務の担当者は大まかにどのようなことを理解しておくべきでしょうか?

一丸:先ほどお伝えした2つのパーツは大きな概念として理解しておいた方が良いと思います。アセットシーリングの2つのパーツをもう少し簡単に説明すると、1つ目の「制度からの返還」は、年金制度に積立金が積み上がっていて、そのお金が企業に戻ってくるのであれば自由に使えるので、資産計上して良いということになります。逆に言うと、年金制度に一度拠出したお金は他のことには使えません、企業に返還できませんよとなっているのであれば、年金制度で十分積立が満たされていて、プラスアルファの剰余部分があったとしても、他には何にも使えないお金だということになるので、資産計上できないという考え方です。
ちなみに、日本の確定給付企業年金制度は原則として年金資産を事業主に返還できません。

もう1つは、年金資産があることで、将来本当は払わないといけなかった掛金が減額されるのであれば、それは年金資産のおかげで減額されるのだから、減額される部分については資産計上して良いという考え方です。
資産計上して良いかの判断にこの2つを使っているということを、なんとなく理解していただいておけば、細かい数字は計算機関に任せてしまって問題ないと思います。

【ポイント】
「制度からの返還」は日本の年金制度においてはほぼ当てはまらないので、まずは「制度への将来掛金の減額の形で利用可能な経済的便益の現在価値」をどう決算日に評価するかということを考えてみれば良いということですね!

 

 

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