基礎から実務までアセットシーリングを極めよう! IICの年金数理人が徹底解説【概要/基礎編】

本コラムでは、弊社セミナー受講後にいただくアンケートや、計算報告の際に、お客様から「むずかしい・ここだけ分からない」とご相談いただくことが多い、IFRSのアセットシーリングを徹底解説しました。 |
![]() |
自社がアセットシーリングが必要か否か分からないという方は、一度チャート診断をしてみてください。
目次
アセットシーリングの概要
アセットシーリングとは何なのか教えてください。
村上:アセットシーリングとは、退職給付会計上で認識できる資産の上限を定めているルールのことを表しており、日本の会計基準には定められておらず、国際会計基準、いわゆるIFRSにおいて定義されているものです。
大まかな内容としては、年金資産が退職給付債務を超えている(以下、積立超過)場合に、日本基準(連結B/S)ではその超過分を全てそのまま会計上認識できますが、IFRSでは、まず資産上限額の計算を行い、超過分がその資産上限額を超えなければ全額計上できますが、資産上限額を超えてしまった場合は、資産上限額までしか会計上認識できないということになります。
また、仮に積立超過となっていないケースでも、確定給付企業年金制度の特別掛金や特例掛金等が設定されている場合には、別途掛金を考慮した場合の積立状況を再度把握して、追加の負債を計上しなくてはいけないこともあります。
【ポイント】 |
![]() |
アセットシーリングは具体的にどういった企業で必要になりますか?
村上:具体的にはこれから挙げる3つ全てに該当する企業は、計算が必要になります。
1:IFRS(国際基準)を適用してる
|
上記に挙げた3つ全てに該当する場合、基本的に資産上限額の計算が必要になってきます。日本基準のみ適用している場合や、退職一時金制度だけの企業は、基本的にアセットシーリングを気にする必要はありません。
【ポイント】 |
![]() |
アセットシーリングはIFRSのどの文書で定義されていますか?
![]() |
村上:IFRSの退職給付会計の処理が規定されている「IAS第19号従業員給付」で確認できます。またそれより実務的な内容が「IFRIC解釈指針第14号」に記載されています。 それに加えて、日本年金数理人会が公表している「IAS19に関する数理実務基準」にも記載がありますので、この3つでアセットシーリングに関するルールや定義を確認できます。 「IAS19に関する数理実務基準」に記載されている内容に少しだけ触れると、第25項(資産の上限)にて資産の上限は、<制度からの返還>と、<制度へ支払う将来の掛金の減額の形で企業が利用可能な経済的便益の現在価値>という、2つのパーツで構成されていると記載されています。 この2つのパーツは様々な解釈があるので、基本的には計算機関や監査法人と相談しながら進めていきましょう。 |
退職給付債務の担当者は、それらの会計基準を読んで理解できた方が良いのでしょうか?
村上:もちろん理解できるに越したことはないですが、我々実務を行っている人間ですら、100%理解している人は少ないほど難解な部分であることに加えて、資産上限額の2つのパーツは解釈が様々ある為、極力プロの専門家に相談する方が望ましいのではないかなと思います。
一丸:アセットシーリングで何をやっているのかという大きな概念は、担当者に理解いただいていた方が良いと思いますが、細かいところは非常に難しいです。日本年金数理人会が公表している「IAS19に関する数理基準」でも、定義しか書いていないため、結局、IFRSの基準書を見てくださいというような表記になっています。つまり、最終的には原文が英語で記載されているIFRSの基準書を確認する必要がでてきますので、やはり専門家にお任せする方が良いと思います。
退職給付債務の担当者は大まかにどのようなことを理解しておくべきでしょうか?
一丸:先ほどお伝えした2つのパーツは大きな概念として理解しておいた方が良いと思います。アセットシーリングの2つのパーツをもう少し簡単に説明すると、1つ目の「制度からの返還」は、年金制度に積立金が積み上がっていて、そのお金が企業に戻ってくるのであれば自由に使えるので、資産計上して良いということになります。逆に言うと、年金制度に一度拠出したお金は他のことには使えません、企業に返還できませんよとなっているのであれば、年金制度で十分積立が満たされていて、プラスアルファの剰余部分があったとしても、他には何にも使えないお金だということになるので、資産計上できないという考え方です。
ちなみに、日本の確定給付企業年金制度は原則として年金資産を事業主に返還できません。
もう1つは、年金資産があることで、将来本当は払わないといけなかった掛金が減額されるのであれば、それは年金資産のおかげで減額されるのだから、減額される部分については資産計上して良いという考え方です。
資産計上して良いかの判断にこの2つを使っているということを、なんとなく理解していただいておけば、細かい数字は計算機関に任せてしまって問題ないと思います。
【ポイント】 |
![]() |
アセットシーリングへの疑問【基本編】
アセットシーリングの資産上限額は、どのように計算するのでしょうか?
![]() |
村上:資産上限額は2つのパーツから構成されるというお話しさせていただきました。まず<制度からの返還>は私も実際にたくさんのIFRSの案件をやってきましたが、ゼロとして扱う以外見たことがないです。基本的にはゼロと考えてよいと思います。 次に、<制度へ支払う将来の掛金の減額の形で企業が利用可能な経済的便益の現在価値>は、解釈が複数ありますが、一般的な形としては、通常予測給付現価と退職給付債務の差額である<将来の勤務費用の現在価値>と呼ばれる部分を計算して、そこから<将来の標準掛金の現在価値>を控除した部分が該当します。難しい単語が並びましたが、<制度からの返還>とは異なり、計算が必要になる部分であるとご認識ください。 また、確定給付企業年金制度の年金財政について知識のある方向けに補足すると、<制度へ支払う将来の掛金の減額の形で企業が利用可能な経済的便益の現在価値>は、式を組み替えると、いわゆる通常予測給付現価から標準掛金収入現価を控除した、年金財政上の数理債務と呼ばれる部分から退職給付債務を控除したものになります。(なお、数理債務―退職給付債務がゼロ以下の場合はゼロとして扱います。) |
一丸:ここまでのコラムを読んでみて難しかったと思いますが、将来掛金の減額による資産の上限額というのは、積立金があることによって、本来払わなくてはいけない掛金が減るのであれば、それは資産として計上しても良いでしょうということです。 ではそれをどう計算するかという話ですが、今後、退職給付に充てる費用として計上されていくものが将来の勤務費用ですよね。それだけ本来払わないといけないんですけれども、一方で将来の標準掛金というのはまた別に計算されて、勤務費用より標準掛金の方が少ないのであれば、それは積立金があるから少ないという事になります。 |
![]() |
【ポイント】 |
![]() |
一丸:上記は確定給付企業年金制度で拠出している掛金が標準掛金のみの場合でしたが、これにプラスで特別掛金を拠出していたり、最近だとリスク対応掛金が出てきており、標準掛金以外の掛金を拠出していると、さらに計算式が複雑になってきます。
また計算方法の解釈も様々で、監査法人によって取扱いが違う場合もあるので、その都度確認しながら、決めていくことになります。
その際には私たちのような計算機関にもご相談ください。
どういったタイミングで監査法人等から計算するよう求められるでしょうか?
![]() |
村上:私のこれまでの経験からの回答になりますが、一般的に積立超過になる場合には、監査法人等から計算を求められます。また、仮に積立超過ではなかったとしても、計算を求められたケースを2つご紹介します。 まず1つ目は、IFRS移行時です。 2つ目は、最近まさにそうですけど、割引率が上昇している時というのは、退職給付債務が下がりますので、積立超過になりやすくなります。そのため計算を行うことになりました。 最近は2つ目のタイミングに当てはまる企業からよく相談いただいている印象があります。 |
一丸:弊社のお客様の大半は、初回計算時にアセットシーリングの話をするというよりは、計算して1年後に話が出てくるケースが多いみたいですね。 アセット(資産)という言葉が含まれるので、お客様はアセットシーリングの話が出ても、退職給付会計の話ではなく、資産側の話と思って幹事会社に相談しているケースが多いようです。詳しくはわからないけど、資産の上限があるらしい…幹事会社に資産の上限がいくらか聞いてみようという流れのようです。 そこで初めて資産がいくらかといった話ではなく、その上限については全く別で計算しないといけないということを聞いて、弊社のような退職給付債務の計算機関に連絡が来ているように感じます。 |
![]() |
いかがでしたでしょうか? まずは大きな2つのパーツの概念を理解するのが大事ということですね! |
![]() |