年金資産運用の「Plan」
目次
- 1 :運用目標の設定
- 2 :政策アセットミックス(資産構成割合)の策定
運用目標の設定
まず、Planのステップでは運用の目標を設定し、その目標に合致した政策アセットミックス(資産構成割合)を定めることがゴールとなります。
では運用の目標はどのように設定すればよいのでしょうか?
運用目標の設定を改めて考えるとき、そもそも年金資産運用の目的は何なのか、企業年金を実施している目的は何だったのかを押えておく必要があります。
企業年金を実施することになった経緯は企業により様々でしょうが、ほとんどの場合、企業年金は退職金制度の一部または全部を移行したものになっています。つまり、退職金の積立手段として企業年金を実施しているということです。
ですので、(少なくとも企業年金に移行した部分については)退職金の原資を確保し、支払いを確実なものにするということが企業年金がもつ重要な役割であり、その役割が果たされるのに十分な年金資産の積立を確保すること、これが年金資産運用の基本的な目的といえるでしょう。
年金資産の積立は、企業が拠出する掛金と、その掛金を元手にした運用収益によりまかなわれます。
一定の掛金を前提とした場合、より高い積立水準により早く到達するためにはより多くの運用収益が必要になり、それだけ高い収益が期待できるものに投資することになります。
しかし投資の世界では、「高いリターンを求めれば、リスクも高くなる」のが大原則です。高い収益を求めた結果、大きな損失が出て逆に積立水準が下がってしまうと、その穴埋めのために追加の掛金を負担しなければなりません。
従って、必要な積立を確保するために、掛金とのバランスを考慮してどの程度の運用収益が求められるのかということに加え、仮に損失が出た場合にどこまでなら追加の掛金負担を許容できるのかという点が、運用目標を考えるにあたって重要となります。
また、年金資産運用は退職給付会計、つまり会社の業績にも大きな影響を与えます。
高い収益目標を設定し、期待運用収益を大きくすることで当期の退職給付費用を抑えることはできますが、結果として大きな損失が出れば、数理計算上の差異という形で翌期以降の退職給付費用の増大を招くこととなります(数理計算上の差異を当期に償却することとしている場合は当期の損益にも影響)。
従って、掛金負担の場合と同様に、どの程度の退職給付費用(及びその構成要素である期待運用収益)が会社にとって適正水準であるかといういことに加え、仮に損失が出た場合にどこまでなら費用の増大を許容できるのかという点も、運用目標を考えるにあたって重要なポイントになります。
これらをまとめたのが以下の「目標設定マトリクス」です。
【 図表A 】目標設定マトリクス
このマトリクスを埋めることで、その会社にとってのあるべき運用目標が見えてくることになります。
しかしこのマトリクスを一人の運用担当者が完成させることは難しいでしょう。なぜなら、積立水準の確保という点では人事や年金基金、掛金負担については財務、退職給付会計や業績管理については経理・経営企画といった具合に、複数の部門が関与する問題だからです。
従って、適切な運用目標の設定には部門間の連携が必須であり、その上で最終的には経営判断が求められます。
そのため、年金資産運用の体制を整えている会社では、関連部署の責任者・担当者と経営トップまたは担当役員で構成される「年金委員会」や「資産運用委員会」といった組織を儲け、定期的に運用の状況を確認したり、運用方針についての検討を行ったりしています。
もし、年金資産運用の目標設定が社内で共有・理解されていないということであれば、まずは「目標設定マトリクス」をベースに各関連部署での運用目標に対する考え方を確認するところから始めてはいかがでしょうか。
次に、この目標設定を、Planのステップでのゴールである政策アセットミックス(資産構成割合)の策定にどう反映させていくのかについてお話します。
政策アセットミックス(資産構成割合)の策定
上記【 図表A 】をご参照ください。
まず、マトリクスの1段目にある「どんな状態であれば必要な収益が確保できていると言えるか」ですが、これは運用の期待リターン(収益率)に直結します。
例えば、「5年後には年金財政上の積み立て不足が解消されている」という状態を設定すれば、それに必要な収益率を計算することができますので、期待リターンはこれ以上になるようにしておく必要があります。
一方、マトリクスの2段目にある「運用損失が出ても許容できる最低限のラインはどこか?」については運用のリスク(標準偏差)と関連します。
なお、ここでいうリスク(標準偏差)とは収益率のブレの大きさを示しています。例えばリスクが5%であるといったときは、予想される収益率の中心値(=期待リターン)からのブレが平均して±5%程度あるということです。
大雑把に言って、例えばリスクが5%であれば、それを2倍した10%を超えるようなブレはめったにありません。期待リターンが3%でリスクが5%であれば、実際の収益率は3±10%、つまり-7%から13%の範囲にほぼ収まると考えて差し支えないということです(もちろん絶対に収まるというわけではありませんが)。
許容できる最低限のラインについて、例えば「今より特別掛金(積立不足解消のための追加掛金)を増やさずに済むこと」と設定した場合、それを満たすために最低限クリアすべき積立水準が求められます。
そして、その積立水準を確保できる最低限の収益率が計算されることとなります。 この「最低限の収益率」に対して、「期待リターンーリスク×2」がこれを上回っていれば、許容限度を超えて損失が出る可能性はかなり低いと言えるでしょう。
ここまでのところをまとめますと、目標設定マトリクスから期待リターンの目標と最低限の収益率が計算され、最終的に期待リターンとリスクの目標値が求められる、ということになります。
【 図表2 】
では、この期待リターンとリスクの目標値をクリアできる運用を行うにはどうすればよいでしょうか。 年金資産運用の成績を左右する最も大きな要素は資産構成割合です。 資産構成割合とは例えば以下のようなものを指します。
【 図表3 】
年金資産のうち、どの資産種類に何%を振り分けるかによって、運用成績は大方決まってしまいまず。それだけ資産構成割合の決定は重要です。
そして、この資産構成割合が決まると、年金資産全体の期待リターンとリスクを推定することができます。
さらに、ある期待リターンを満たす資産構成割合の中から、リスクがもっとも小さくなるような資産構成割合を求めることも可能です。
このような計算から期待リターンとリスクの目標値をクリアできる資産構成割合を導き出し、最終的に決定した資産構成割合の計画が政策アセットミックスになるというわけです。
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