年金資産運用の「Check」
目次
- 1 :はじめに
- 2 :運用成績の評価について
- 3 :運用指針(ガイドライン)の確認
- 4 :提案時に説明を受けた運用方針や目標との整合性
- 5 :結果に対しての分析
はじめに
「年金資産運用の結果を検証する」といった場合、まず思い浮かぶのは、運用成績は良かったのか悪かったのか、それらをどう評価するのかということでしょう。
もちろんそれも重要ですが、「年金資産運用の「Plan」~運用目標の設定」で解説したように、年金資産運用の基本的な目的は十分な積立水準を確保することにあり、運用目標については業績(退職給付費用)への影響も勘案して設定されたものであるはずです。
従って、運用成績の評価以前に、
・ 年金財政の積立状況が1年間でどう変化し、その中で年金資産運用がどの程度影響しているのか
・ この1年間の運用実績が退職給付費用にどう影響しているのか
といったことを正しく理解し、当初立てた計画と比較してどうだったのかを確認しておく必要があります。
そして、想定外の影響が出ていたり、目標設定の前提となる年金財政の積立状況や会社の経営環境に大きな変化があった場合には、目標設定から再度検討する必要があるでしょう。
運用成績の評価について
次に、運用成績の評価についてですが、「年金資産運用の基本について考える~PDCAの概要」で解説したように、運用収益は以下の4つの要素に分解することができます。
・ 予め定めた資産構成割合と市場の収益率から計算される収益率
・ 予め定めた資産構成割合と実際の資産構成割合との乖離により生じた差
・ 各資産ごとの市場の収益率(東証株価指数などのインデックス)と実際の運用の違いにより生じた差
・ 運用報酬(運用機関に支払う手数料)
1.は複合ベンチマーク収益率と呼ばれ、Planのステップで定めた政策アセットミックスによって決まる部分です。運用収益を左右する最も大きな要素です。
そして、これに資産配分効果(上記2.で説明される部分)と個別資産効果を(上記3.で説明される部分)を加え、運用報酬を差し引いたものが最終的な運用収益となります。
以下、資産配分効果と個別資産効果についてもう少し詳しく見ていきます。
資産配分効果
市場の将来見通しに基づいて、資産配分の調整を行った場合には、その結果が資産配分効果に現れることとなります。
例えば、今年度は債券よりも株式に投資したほうが有利だと判断し、計画値よりも株式の構成割合を高めに推移させた場合、予想通り株式の収益率が債券の収益率を上回れば資産配分効果はプラスとなりますし、逆の結果になれば資産配分効果はマイナスとなります。
資産配分の調整は、会社側の判断で行われる部分もあれば、運用機関内の判断で行われる部分もありますので、評価にあたってはそれぞれでどのような判断が行われ、その結果として資産配分効果がどう表れてきたのかを見極める必要があります。
また、実際の資産構成割合は、それぞれの市場の収益率によって変動していきます。積極的に資産配分の調整を行わなくても、例えば株式市場の収益率が高まれば、自動的に株式の構成割合は計画値より高くなっていき、年金資産全体としての期待リターンとリスクも計画値から外れていくことになります。
従って、実際の資産構成割合が政策アセットミックスからどの程度乖離しているかを確認し、その差が大きいようであれば計画値に戻すための調整(これをリバランスといいます)の実施を検討する必要があります。
個別資産効果
個別資産効果については採用している商品の性質により、その出方や評価の基準が異なります。
パッシブファンド(市場の収益率に連動した運用成果を目指すファンド)中心の商品であれば個別資産効果はほとんど出ないことが期待されますし、評価の基準もそこに置くことになります。仮に個別資産効果が大きくプラスに出ていたとしても、それは余分なリスクをとっていたということであり、パッシブファンドとして評価することはできません。パッシブファンドの評価には、一般的にトラッキング・エラー(TE)という市場の収益率とファンドの収益率の変動の違いを表す指標が用いられ、TEが十分に小さいかどうかが評価の基準となります。
一方で、アクティブファンド(市場の収益率を上回る運用成果を目指すファンド)中心の商品であれば、個別資産効果である程度のプラスを獲得することが期待されます。但し、こちらについてもプラスが出ていればそれでよいというわけではなく、アクティブ運用による追加のリスク(市場の収益率との乖離)に見合った追加のリターンが確保できているかを見る必要があります。これを表すのが、超過リターン(市場の収益率を上回った部分)をTEで割ったインフォメーション・レシオという指標であり、この指標が高いほどアクティブファンドとしての評価は高いと言えます。
アクティブファンドは市場の平均を上回る収益の獲得を目指すファンドですが、市場の平均を上回るファンドがあるということは、当然市場の平均を下回るファンドもあるということです。すべてのファンドが市場の平均を上回るなどということはあり得ません。個別資産効果で継続してプラスを出していくには他者を上回る情報収集能力や分析力が求められるということを認識しておくべきでしょう。
なお、最近では市場を上回る収益の確保よりも、リスク(値動きの大きさや、損失の大きさ・可能性)を小さくすることをねらった運用商品を提供されているケースが増えてきています。この場合、定量的な評価をリターンの高低で決めることはできないため、評価の難易度は高くなります。まずは、運用機関側がどのような指標に基づいて自己評価しているのか、その指標は評価の基準として妥当なのかという点から確認していくのがよいでしょう。
次に、定性評価を行うにあたっての基本的なポイントについてお話します。
定量評価は数値で結果を確認したり比較したりすることができるので、客観的な判断基準を設けることができますが、これらはあくまで過去の運用結果の評価であり、将来の結果を保証するものではありません。
そこで、定性評価も併せて行うことで、将来に対する期待も含めて総合的に判断することが重要になってきます。定性評価とは、つまるところ運用機関や運用商品が「信頼に足るものかどうか」を評価するということです。
運用指針(ガイドライン)の確認
運用機関に対して提示した運用指針(ガイドライン)に定められた事項、例えば資産構成や運用手法について、実際その通りの運用が行われているかどうかの確認です。
基本的なところですが、ガイドラインに定められた内容についての理解を運用機関側と共有できているか、ガイドラインに定められた内容そのものが妥当かの確認にもなりますので、ひととおり確認しておくことをお勧めします。
提案時に説明を受けた運用方針や目標との整合性
運用方針や運用目標として掲げられた内容と、実際の投資行動・投資判断が整合しているかどうかの確認です。
商品の提案時に説明を受けた「このような方針に沿って運用を行うことにより、このような運用成果を目指します」といった内容に対して、実際の運用がそれを逸脱して行われていたとしたら、たとえ結果がよかったとしても信頼を置くことはできません。
結果に対しての分析
期待通りの運用結果であった場合、それが狙ったとおりの結果なのか、それとも偶然の結果なのか、また運用結果が振るわなかった場合、どこに原因があったのかについて、納得のいく説明がなされているかの確認です。
運用結果の良し悪しにかかわらず、結果に対して的確な分析が行われ、その後の運用に活かす努力が継続的に行われているかどうかの見極めが重要です。
採用している運用機関や商品によっては、投資哲学や理念、組織体制、人材、運用プロセス、リスク管理体制といった面でのチェックが重要になってくるケースもありますが、まずは上記のような内容から確認してみてはいかがでしょうか。
とは言っても運用報告書の内容や運用機関側の説明を理解し、評価をするというのは、そうした経験のない人にとっては非常に難しく、すぐにできるようなものではないかもしれません。分からないところがあれば率直に質問し、時間をかけて徐々に理解を深めていくことが必要だと思います。また、そうしたことに真摯に対応しているか、こちらの理解度に合わせて分かりやすい説明や提案をしているかどうかということも、定性評価の一項目に加えてよいと思います。
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