営業の現場から見た原則法移行時に計算委託先を検討する手順とポイント

はじめに
株式会社IICパートナーズの大森です。
決算期が近くなってくると「これまで簡便法で退職給付債務を計算していたが、原則法で退職給付債務を計算するよう監査法人の会計士から言われた。退職給付債務の計算委託先を急遽、探している」といったお問い合わせが増えてきます。
弊社が提供している情報に限らず、世に出ている情報というのは既に退職給付会計や企業年金制度に担当者として携わっている方向けの実務的な情報が多く、これから退職給付債務計算の委託先を探し、退職給付会計に触れる方向けに「どういった視点で退職給付債務の計算委託先を検討したらよいか?」といった情報は世に出ておりません。
そこで、ここ数年のお客様の対応をもとに退職給付債務計算の委託先を検討する際の手順やポイントをご説明したいと思います。また、本コラムの最後では、新たにお問い合わせ頂いたお客様の対応をさせて頂く私以外のメンバーのコメントを掲載しています。ぜひ、最後までご覧ください。
1.計算委託先を検討する際の手順(1) サービスを提供している会社を探す
退職給付債務の計算に限らず、業務委託先を検討するには当然ですが、サービスを提供している企業を探す必要があります。これまで社内でExcelで計算していたお客様からはまれに「自社でできないのか?Excelでできないのか?」と言われることがあります。
結論、ほぼ100%できません。ほぼ100%というのは、どういうことかといいますと退職給付債務計算結果の保証ができる専門家を自社で雇うか専門家の実務要領のすべてを理解し、計算し、その計算結果が監査法人から容認されれば自社で計算できます。興味がある方は実務要領が公開されていますので、ご覧ください。
(参考)
公益社団法人 日本年金数理人会・公益社団法人 日本アクチュアリー会
退職給付会計に関する数理実務基準・数理実務ガイダンス
http://www.jscpa.or.jp/database/account/
ちなみに、業務委託する以外に自社で退職給付債務計算を行う方法として、弊社のような会社から計算ソフトを購入し、担当者がアプリケーションを操作、計算するという方法もあります(Excelでできない程の緻密で膨大な計算なので専用にアプリケーションがあります)。計算ソフトは自社の退職金制度がプリセットされたソフトを購入、その後の作業は自社で行うため業務委託に比べ、コスト面で割安です。
ただ、近年の会計監査では計算ソフトが監査法人の会計士から了承されませんし、計算ソフトの計算結果を第三者である専門家に検証を依頼することを求められるケースが増えています。様々な理由で計算を誤るリスクが高いため、経験則になりますが昔から計算ソフトで計算をされているお客様を除き、監査法人は計算ソフトの使用を一般的に容認しません。そのため、弊社でも計算ソフトを開発、販売しておりますが最近は滅多にご提案しません。参考になるコラムをご紹介しますので、興味のある方はご覧ください。
(参考)
・退職給付債務計算を自社計算から委託計算に変更するメリットと注意点
https://www.pmas-iicp.jp/media/accounting/a117
・退職給付債務計算ソフトによる計算結果の検証の必要性 ~監査で検証が求められるのはなぜ?~
https://www.pmas-iicp.jp/media/accounting/a118
話を業務委託に戻しますと、退職給付債務計算サービスで提供されるものは弊社に限らず標準的に、計算結果と専門家の保証(有資格者の署名)の2つです。
この退職給付債務計算サービスを提供するためには計算結果にお墨付きを与える有資格者がいないとできません。この有資格者は年金数理人やアクチュアリー(以下、まとめて年金数理人)といいます。
年金数理人は保険会社、信託銀行、シンクタンクそれに弊社のようなコンサルティング会社に所属しています。ただ、日本中のこういった会社が退職給付債務計算サービスを提供しているわけではありません。
計算結果には最終的に保証を行うため、年金数理人が必要であることに加えてそもそも退職金・企業年金制度や退職給付会計の専門性が高いため日本中を探しても何十社もサービスを提供しているわけではありません。
弊社は退職金制度や企業年金制度に関する課題をきっかけに、監査法人の会計士や弊社のお客様にご紹介頂いたり、本ウェブサイトPmasをご覧になって弊社に関心を持っていただいたお客様にお問い合わせ頂くことが多いのですが、他社様と比較検討される際は保険会社の営業担当者にご相談されたり、とにかく安く計算結果が欲しいということで計算ソフトを前提に考えられているお客様が多いです。
何社かと比較検討して決めたいという場合は多くても3社位から提案を受ければ十分かと思います。
2.計算委託先を検討する際の手順(2) 候補先の情報を収集する
退職給付債務計算の委託先候補を見つけたら、まず、各社の情報を収集します。退職給付債務計算に限った話ではありませんが私がお伺いするとお客様はQCDの観点で検討していることがほとんどです。
*QCDとは、補足しますとトヨタ生産方式を起源に製造業を中心に生産管理の3要素として定着している考え方です。QCDとはクオリティ(品質)、コスト(価格)、デリバリー(納期)の頭文字で、製造業やメーカーの方であれば新入社員研修等で覚える言葉かもしれません。
ですので、何社かに退職給付債務計算サービスを問い合わせる(比較検討する)前提でどういった観点で候補先から情報を集めたら良いかご紹介したいと思います。
納期に関する情報を収集する時のポイント
<ポイント> 急に計算結果が必要な場合も出てくるという視点で候補先の対応力(スピード)を確認されることをお勧めします。 |
弊社に限らず、他社様もウェブサイトに標準的な納期を掲載しています。早いと初回の計算は1ヶ月位、遅いと3か月、場合によっては半年位かかるといった会社もあります。
まれに10日以内というケースもあります。弊社もちょっと前までは「10営業日以内でご報告」と説明していました。ただ、必要なデータを提出頂いた後のお客様側の作業(データの修正や確認など)に要する時間を含めると10日過ぎることもありますので、弊社は標準1ヶ月以内と説明しています。あまりに短納期でできるという提案をされた時は「データを提出した後に修正が必要になった場合でもスケジュールに変更はないか?」といった質問を投げかけたりすることをお勧めします。
品質に関する情報を収集する時のポイント
<ポイント> この候補先に業務委託したら、自社の課題が解決できるだろうか?という視点で候補先からの提案を聞いてみることをお勧めします。 |
退職給付債務計算サービスは計算結果と専門家の保証(署名)が付く標準的なサービスに加え、各社、会計処理のサポートや監査時の対応(助言)等のサービスも用意しています。そのため、一見、比較検討しやすくコストを中心に判断してしまいがちなサービスです。
退職給付債務計算サービスは初めてどこかに頼むお客様にとってはこの“品質”が一番、わかりづらいかと思います。
身近なものに例えてサービスの違いをご説明しますと「目的地に着くという目的を達成するまでに、どの交通手段を採用するか」が良いかもしれません。長距離移動をコストを最優先し、夜行バスで移動すると半日以上かかりますしお尻が痛くなります。睡眠リズムも狂います。一方、新幹線に乗ってしまえば数時間で着きますし、慣れてしまっているので気付きにくいですが、交通事故に遭うリスクが削減されています。
退職給付債務計算に話を戻すと、計算結果自体はどこの会社でも提供されます。ポイントは自社の状況を考慮するとどの交通手段(委託先)がよいか?という視点です。
ここ数年のお客様へのご提案を振り返ると、退職給付会計の実務に詳しい社員が経理部にいない、決裁者である自分も計算や会計処理を承認できる自信がない、人事部で退職給付債務を計算しないといけない、経営層に退職給付債務の変動や影響を説明できないなどお客様の置かれている状況は1社1社すべて違いました。
自社の課題が解決できるか?業務委託先の事情で余計な負担、手間を業務委託元として抱えていないか?という視点で候補先から提案を聞いてみることをお勧めします。
コストに関する情報を収集する時のポイント
<ポイント> 自分の金銭感覚よりも、自社の退職給付引当金の管理コストという視点で考えることをお勧めします。 |
退職給付債務計算の委託費用というのは業界の水準感がだいたい決まっていますが、各社の料金体系には違いがあり、人数や制度数、初年度と次年度以降などで差が付けられています。
ここ数年のお客様へのご提案を振り返ると、このコスト面の検討は面白い傾向にあります。
データがなく体感的な話なのですが、原則法移行の初回計算といった退職給付債務に影響を与える課題に関する業務委託となると役員や場合によっては社長がご提案の機会に参加されることもあります。こういった時には大変ありがたいことに他社より御見積りが高いような場合でも弊社を採用いただくケースが増えてきました。一方で同じお客様でもご担当者はコストを気にされる傾向にありますが、お打ち合わせを重ねますとご担当者も候補先として弊社への本命度が変わってきます。
この違いは何かと言いますと、役員や社長といった経営層ですと「我が社の経営上の課題を解決する先」という視点で業務委託先を決定しますが、ご担当者ですとご自身の金銭感覚に左右されることが多いからです。
10万円、20万円の差が大きいか小さいかはその方の置かれている状況や立場で異なります。原則法で退職給付債務を計算する規模のお客様ですと日系企業では退職給付引当金の額はそれなりに大きく、退職給付債務の計算コストと比べれば雲泥の差です。場合によっては数十、数百億円規模になる退職給付債務の管理コストを数万円、十数万円切り下げることでの機会損失は退職給付債務の計算誤りに伴う決算修正が代表的ですが比べものにならないほど大きいです。
そのため弊社に限りませんが、退職給付債務計算の委託先を選定する場合は毎年、委託先を変更する性質のサービスではありませんので様々な役職(立場)の方でご判断頂くことをお勧めします。
以上、候補先から収集すべき情報をご紹介しました。
3.営業担当のメンバーが感じているIICパートナーズの強み
最後に、お問い合わせ頂いたお客様の対応を行っているメンバーで「IICパートナーズと他社様を比べたときの違いは?」というテーマで座談会をしましたので、その一部をご紹介します。
*弊社のお客様への対応や以前勤務していた企業との比較といった観点で意見をもらいました。
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「監査の際のお客様のサポートは計算を担当したコンサルタントが引き続き行うということもあり丁寧だと思います。また、お客様にご提供している会計処理の参考資料は画一的なものではなく、お客様の事情に応じて作成しているので柔軟性がありサポート範囲が広いと思っています。」 |
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「会計処理のレポートはそうですね、お客様のご要望をお打ち合わせの際に伺ってオーダーメイドで作っている感じがしますね。他の委託先ではここまでできないと思います。あと納期はかなり早いですし、少し早めにできますか?と言われることもあるのですが柔軟に対応しています」 |
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「担当者の方も実務を全く何も知らないという方も結構いて、業務への不安を感じている方も多いのですが退職給付債務の計算に必要なデータの作り方からフォローしています。お客様の対応をしていると心理的に安心させられている感覚を持っています。」 |
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「西村も言っていますが、計算結果の報告が早いですね。有資格者をはじめ専任の担当者が計算のご案内から結果の説明まで一貫して対応するからだと思います。保険会社や信託銀行だと各工程に担当者がいて、スケジュールが組まれていて、計算結果の専門家による確認が完了するまでに工程ごとに決裁が必要で時間がかかってしまうことが多いです。」 |
今後は私以外のメンバーが困りごとをお伺いする機会も増えてくると思いますが、よろしくお願いします。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。
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この記事を書いた人 大森 祥弘 東京本社:新規営業・アライアンス担当 |
全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)全国本部にて適格退職年金制度の移行、企業年金コンサルティング及び年金管理事務やシステム改定に従事した後、トヨタグループの管理部門を経て、IICパートナーズに入社。 JAグループへの公認会計士監査対応支援、国内金融機関への退職給付会計業務支援、運営管理機関へのDC運営管理業務支援などのアドバイザリー業務に従事。 |