退職給付債務(PBO・DBO)計算ソフトによる計算結果の検証の必要性 ~監査で検証が求められるのはなぜ?~

金融機関やシンクタンク等からPBO計算ソフトのライセンスを購入して、社内で退職給付債務の計算を行うことを“自社計算”と呼びます。ここ数年、自社計算を行っている企業から「社内で計算した退職給付債務計算結果について、専門家による検証を監査法人から求められている」といったお問合せをいただくことが増えてきました。
本コラムでは、この会計監査において社内でPBO計算ソフトを用いて計算したいわゆる“自社計算”の検証が求められるケースについて背景知識をお話ししたいと思います。
“自社計算”の検証の中心はデータが正しいかではなく、計算前提や基礎率
PBO計算ソフトによる“自社計算”は日本に退職給付会計基準が導入された頃(2000年台)に流行り、今でも多くの企業が社内で退職給付債務を計算されています。
専門家の所属する弊社のような企業へ退職給付債務計算を委託する“委託計算”と比較して、“自社計算”は社内で計算できます。そのため、自分達で操作すればすぐに計算結果がわかる点やソフトの利用料が委託計算の委託費用より安いといったメリットもありますが、計算ソフトの扱いに慣れていないとヒューマンエラーが起こるリスクがあるという課題もあります。
また、オペレーションリスク(操作ミス)やPBO計算ソフトに取り込むデータの作成ミスだけでなく、後述の退職給付債務計算の計算前提や計算に用いる基礎率の妥当性(正しいか)が会計監査においては検証対象となることが多いです。この部分は計算ソフトを販売している金融機関やシンクタンク等が計算ソフトを提供する際にソフトの設定をセットアップしていますから企業が触れる設定ではありません。こういった普段、計算ソフトを操作する際に触れていない設定を中心に監査上、論点になることがあります。
計算ソフトを利用して退職給付債務を計算している企業からいただくお問い合わせ
自社計算を行っている企業から次のようなお問合せをいただくことがあります。
・ 監査法人を変更したため、計算ソフトで計算した退職給付債務の検証を求められている。
・ PBO計算ソフトに取り込むデータにミスがなければ、結果は正しいのではないか?
・ 3年~5年に1度の定期的な専門家による検証を監査法人から要請されている。
よく誤解されるのですが、計算ソフトはあくまで”計算のツール”であって、計算結果が正しいと保証しているものではありません。これは特定の金融機関の計算ソフトに限った話ではなく、弊社がご提供しているPBO計算ソフトも同様です。そのため、企業は専門家の所属する弊社のような企業に、計算ソフトを利用して計算した結果の検証を依頼し、計算結果が正しいと推察できるといった論拠(証拠)を監査法人へ説明・提出できなければいけません。

退職給付債務の専門家による検証とは?
会計監査では退職給付債務計算の計算プロセスの検証が行われ、具体的には人員データや昇給率・退職率などの基礎率、期間帰属などが適切であるかどうかを検証します。
企業側の担当者が複雑な退職給付会計の考え方に基づき、これらが適切であることを監査法人へ説明することは困難ですし、対応に時間を要すると監査時間が増加し、監査費用の増加につながる可能性もあります。そのため、アクチュアリーや年金数理人と呼ばれる専門家による検証を監査法人から推奨されることが多いです。
監査法人は退職給付債務を検証できないの?

国内大手の監査法人では監査法人に所属する専門家が監査の一環で自社計算結果の検証をしていますが、検証体制を構築している監査法人は限られています。退職給付債務の詳細な検証体制を構築していない監査法人は十分かつ適切な監査証拠を得るために必要に応じて、監査を受ける企業へ専門家の所属する弊社のような企業に検証を依頼することを促すことがあります。
おわりに
以上、退職給付債務(PBO・DBO)計算ソフトによる自社計算結果の検証の必要性についてお話ししました。検証の委託先には、監査法人への説明のサポートのほかに、人員データや基礎率を詳しく検証してくれる会社を選ぶことで、課題の点検(内部統制の強化)にも有効です。
計算ソフトを操作して退職給付債務を計算している、毎期の監査で退職給付債務や退職給付会計の指摘・質問対応に時間や労力を取られるといった企業は専門家の所属する弊社のような企業にご相談できることを覚えておいて頂けますと幸いです。
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※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。
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この記事を書いた人 佐々木 杏珠 事業推進部 |
東京理科大学理学部数学科卒。 2019年にIICパートナーズに入社し、退職給付債務計算や新たにお問い合わせ頂いた企業への業務改善提案などを担当。 |