簡易な基準に基づく確定給付企業年金制度について

目次
- 1 :はじめに
- 2 :簡易DB制度の概要
- 3 :簡易DB制度の特徴と留意点
1.はじめに
確定給付企業年金制度(以下、DB制度)を実施するにあたっては、基金型の場合を除いて特別な人数要件は設けられていません。そのため、設立のための人数要件が定められていた厚生年金基金制度と比較すると、DB制度は加入者数の少ないものが多いと言われています。
加入者数の少ないDB制度の場合、適正な年金数理に基づいた計算基礎率の算定が困難であるケースが多いと考えられます。そのため、以下のいずれかの要件を満たすDB制度については、簡易な基準に基づく制度運営を選択することが可能となっています。
・ 計算基準日時点における加入者数が500人未満であること(受託保証型確定給付企業年金※を除く)
・ 受託保証型確定給付企業年金であること
当コラムでは簡易な基準に基づくDB制度のうち、特に受託保証型確定給付企業年金でないものについて解説を行い、さらに実務上の留意点について考察していきます。なお、受託保証型確定給付企業年金以外の簡易な基準に基づくDB制度を、当コラムでは「簡易DB制度」と略記します。
※ 数理債務の額が年金資産の額を上回らないことが確実に見込まれるDB制度のことをいいます。例えば、一般勘定の運用実績を指標とするキャッシュ・バランス・プラン(以下、CBプラン)であり、運用を一般勘定のみで行っているような制度が該当します。
2.簡易DB制度の概要
制度の概要については、給付設計の制約・掛金の計算・債務の計算・各種手続きの4つに分けて考えると理解しやすいです。
i. 給付設計の制約
簡易DB制度では、給付設計に関して以下の制約があります。
・受給中の年金額の改定を行うことはできない
・障害給付金の支給はできない
・遺族給付金の額は老齢給付金の残存保証期間で支給される年金の現価相当額または脱退一時金の額を上回ってはいけない
ii. 掛金の計算
簡易DB制度の場合、掛金を計算するときに用いる計算基礎率は以下のように設定する必要があります。
<受託保証型確定給付企業年金以外の場合>
・予定利率:下限予定利率以上4.0%以下の範囲内で設定
・予定死亡率:積立上限額の計算に用いるものと同じもの※1を使用
・予定再評価率:CBプランの場合にのみ設定、通常のDB制度と同様に設定
・上記以外の計算基礎率:使用しない
※1 加入者:基準死亡率×0.0、受給者等:基準死亡率×0.72
iii.債務の計算
毎事業年度末に行う財政検証に用いる債務に関して、以下のように簡便的な方法で算定することができます。
・最低積立基準額:事業年度末における数理債務の額×一定の定数※2
・積立上限額:事業年度末における数理債務の額×一定の定数※3
※2 掛金の計算基準日における“最低積立基準額÷数理債務の額”
※3 掛金の計算基準日における“積立上限額÷数理債務の額“
iv.各種手続き
当分の間、年金数理に関する書類に関して年金数理人の確認が不要となっています。
3.簡易DB制度の特徴と留意点
上述の通り、簡易DB制度は一定の制約を設けることで、簡便的な財政運営が認められているものです。そのため、通常のDB制度と異なり簡易DB制度ならではの特徴や留意点が存在します。
i. 運営に要するコスト
一般的に、簡易DB制度の運営コストは通常のDB制度と比較して低廉であると言われています。これは、掛金や債務の計算に用いる計算基礎率が限られていること、一部の手続きが簡素化されているためです。
ii. 財政決算における差損益の発生と退職金制度との関係
簡易DB制度では、掛金や債務の計算において限られた計算基礎率しか用いていません。具体的には、将来の脱退や昇給の見込みに関しては計算に織り込まれていません。そのため、実際に脱退や昇給が発生した際には、通常のDB制度と比較して大きな差損益が発生する可能性が高いといえます。これらの差損益の発生は将来の掛金変動を招く可能性があるため、安定的な財政運営という観点からは注意が必要です。
このような差損益の発生を抑制するためには、計算に見込まれていない計算基礎率に対して掛金や債務が依存しづらい給付設計へ変更することが有効です。制度の変更例としては、以下のようなものが挙げられます。
・脱退による差損益の発生を抑制するため、自己都合による減額を撤廃する
・昇給による差損益の発生を抑制するため、定額制の給付とする
しかし、上記のような制度変更を行った場合、今度は退職金制度との関係について注意が必要となります。制度変更によって会社が本来想定している退職金の水準が大きく変化したり、年金制度との給付調整のために多大な事務負荷が生じたりすることのないよう、慎重に検討する必要があると思われます。
※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。
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