退職給付債務計算の報告会に初めて同席する人向けの4つのポイント

目次
- 1 :はじめに
- 2 :報告書の概要
- 3 :報告会で確認しておきたいポイント
はじめに
退職給付債務等の計算は年金数理の専門家であるアクチュアリーが在籍する計算機関に委託しているケースが多く、計算機関は計算結果を報告書にまとめて依頼会社に提出しています。これに伴い、計算機関による報告会がしばしば設けられますが、これから初めて同席される方もいらっしゃるかと思います。
初めて報告会に同席される方向けに、報告会で計算機関に聞いておきたいポイントを挙げたいと思います。
報告書の概要
一般に退職給付債務計算の報告書は次の情報を含んでおります。会計諸数値については、退職給付債務計算の報告書とは別の報告書で提供されるケースや計算機関に作成を依頼していないケースもあります。
◆ 計算前提(設定方法、表、グラフ等)
◆ 使用データの集計値
◆ 計算結果
◆ 計算結果を基にした会計諸数値(当期及び翌期)
報告会で確認しておきたいポイント
必要最低限の情報は報告書にまとめられています。しかし、実務を行う上で、あるいは計算結果に対して理解を深める上で、次の点は報告会の中で計算機関に確認しておくことが重要です。
まず、実務を行う上で、次の2点は確認しておきましょう。
(1)人員に関する補正の必要性とその方法
依頼会社は計算機関に対して計算用の人員データを提出します。この人員データは「期末日時点」の場合と「期末日前の時点」の場合があります。「期末日時点」であれば補正の必要はありません。一方、「期末日前の時点」の場合は、期末日時点への補正が必要になります。補正の方法は、退職給付債務の評価基準日が「期末日時点」か「期末日前の時点(人員データと同じ)」かによって異なります。
(2)決算で採用すべき割引率
計算結果に大きな影響を与える前提の1つに「割引率」というものがあります。報告書の中の計算結果は、割引率を複数パターンで計算した結果が記載されていることも多いです。この割引率について、決算で最終的に何パーセントを採用すべきか確認することは、退職給付会計の実務において非常に重要です。期末日時点の割引率で計算されていない場合は、補正計算を行うことが想定されます。補正にはいくつかの方法があるため、使用する方法を確認しておきましょう。
次に、結果に対して理解を深める上で、下記2点を確認しておくことをお勧めします。
(3)数理計算上の差異の主な発生要因
退職給付債務は一種の見込計算であるため、いくつかの要因によって実績との乖離が生じます。この乖離は「数理計算上の差異」といい、毎期末に必ず発生します。年金制度がある場合には、年金資産の運用収益についても見込と実績の乖離が発生します。
発生の要因は次の3つに大別できます。差異が大きかった要因と大まかな金額を聞いておきましょう。
◆ 人員変動に関する発生分(退職給付債務)
◆ 計算前提の変更に関する発生分(退職給付債務)
◆ 運用収益に関する発生分(年金資産)
(4)翌期退職給付費用の増減の主な要因
退職給付債務計算では、翌1年間の債務の積み上がりによる費用(勤務費用と利息費用)も計算しています。全体の退職給付費用は、これに加え、(3)の数理計算上の差異等の償却や年金資産の期待運用収益で構成されます。前年からの退職給付費用の変動は、項目ごとに分けて要因を確認することで分かりやすくなります。報告会では増減の大きかった項目と主な要因について確認しておきましょう。
◆ 退職給付債務の積み上がり部分(退職給付債務)
◆ 数理計算上の差異等の償却の部分(退職給付債務、年金資産)
◆ 期待運用収益の部分(年金資産)