原則法移行後初回決算時のポイント
最終更新日:2023年3月20日
退職給付債務の計算を簡便法から原則法へ移行するときにはいろいろな検討事項が出てきますが、退職給付会計では原則法に移った次の年度に決めないといけないこともいくつか出てきます。今回のコラムではそのような事項について説明します。
目次
- 1 :割引率に関する重要性基準
- 2 :計算基礎率変更のタイミング
- 3 :数理計算上の差異の償却年数
割引率に関する重要性基準
退職給付債務の計算にはいくつもの計算基礎が使用されていますが、その中でも計算結果に大きな影響を持つのが割引率です。
割引率は基本的に当期末の金利情勢に応じたものを使用することとなっていますが、前期末に採用した割引率と当期末に使用するべき割引率に大きな変動がなければ、前期末に採用した割引率を当期末も引き続き採用できる、「重要性基準」というルールがあります。
割引率の変動により退職給付債務に重要な影響があるかどうかの判断においては、前期末に採用した割引率で計算した退職給付債務と当期末に使用するべき割引率で計算した退職給付債務に10%以上の差があるかどうかがポイントとなります。
原則法移行時は移行時の金利水準に応じた割引率で計算することになりますが、重要性基準を適用する場合、次回の決算時は前期末(原則法移行時)の計算に使用した割引率と当期末の金利水準に応じた割引率とを比較してどちらを採用するか決める必要があります。
なお、重要性基準を適用するかしないかは毎期ごとに個別に判断するのではなく、ルールとして継続的に定めておくこととなります。重要性基準をルールとして採用するならば、債務に10%以上の変動を及ぼす重要な影響があれば当期末の割引率に変更し、そうでなければ前期末の割引率を引き続き採用する、というルールに則って毎期の割引率を決定することになります。
重要性基準を適用する場合、毎期の債務の変動は抑えられますが、割引率を変えないといけなくなったときに債務が大きく(10%以上)変動することになります。 また、IFRSでは重要性基準は認められていないことにも留意が必要です。
計算基礎率変更のタイミング
割引率以外に計算に用いる計算基礎として退職率及び昇給率などがあります。退職給付制度が退職一時金のみの場合は退職給付債務用に算定することになりますし、企業年金制度がある場合は企業年金制度の財政運営に使用しているものを使用することもできます。
企業年金制度の退職率及び昇給率を使用している場合、変更タイミングは企業年金制度に合わせることになります。(5年に1度というのが一般的です。)退職給付債務計算用に退職率及び昇給率を算定している場合は、何年ごとに変更するかを決める必要があります。毎年変更することもできますし、数年に一度変更するということもできます。
原則法に移行したときは初めての計算なのでその時点で算定された退職率及び昇給率を使うしかありませんが、原則法に移行した後初めての決算時は、原則法移行時の計算に使用した率を継続して使用するのか改めて算定し直すのかを決める必要があります。
退職者の人数や昇給などが安定している場合は、毎年退職率及び昇給率を算定し直してもほとんど変わらないということもあるので、そのような場合は3年程度に1度の見直しで特に問題ないと思います。退職率を算定するにはデータ基準日から過去3年間に退職された方のデータを用意していただく必要があるので、その分の作業を節約することもできます。
数理計算上の差異の償却年数
原則法では毎年度退職給付債務を計算しますが、(個別財務諸表の場合)それをただちにB/Sに反映しなければいけないわけではありません。B/Sに計上する引当金の計算には、前期末の計算結果から予測される当期末の退職給付債務の額を使用します。
そのため、実際の退職給付債務と予測の退職給付債務とに乖離が生じます。これを数理計算上の差異と言い、翌期(あるいは当期)から「平均残存勤務期間」以内の一定年数をかけて償却することになっています。また、この年数は継続的に使用する必要があります。
原則法に移行した後の初回決算時からは数理計算上の差異が発生することになりますが、これを何年かけて償却していくかを決める必要があります。
長い年数をかけて償却した方が毎年の損益に与える影響は平準化されることとなりますが、平均残存勤務期間がその償却年数を下回った場合には償却年数を見直す必要があることに留意が必要です。
※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。
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