JAは退職給付債務の専門家による検証を受けるべきか?-3-

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JAは退職給付債務の専門家による検証を受けるべきか?-3-

JAは退職給付債務の専門家による検証を受けるべきか-1-では、退職給付債務計算の自社計算結果の専門家による検証は必要か、自社計算の課題や検証についてを説明しました。

JAは退職給付債務の専門家による検証を受けるべきか-2-では、JAが留意するべき計算基礎率の監査上のポイントについて具体的に解説してきました。

第3回は、期間帰属方法についてくわしく解説します。

これまでは、JAの公認会計士監査で論点になる課題として、基礎率設定の留意点について伺いましたが、同じく論点になるのが期間帰属方法だと思いますがいかがでしょうか。

先に紹介した『公認会計士監査の着眼点とそれへの対応について』(農林水産省経営局協同組織課より2019年1月に発出)では、監査費用の調査事業の際に監査費用の増加要因となり得ることとして、農林水産省が2016年度から行っているJA等(農業協同組合および農業協同組合連合会)の監査費用に関する調査事業を進めていく中で気付いた事項(気付事項)が掲載されています。そこでは、期間帰属方法の検証も含め、退職給付会計に関して以下の項目が挙げられています。

A.退職給付債務の算定を外部に委託している場合などにおいて、計算に用いられる各種基礎率が異常な水準となっていないか検討は行われていますか

B.退職給付見込額の期間帰属方法として給付算定式基準を採用している場合、給付算定式に従って計算した給付が著しい後加重となるかどうかについての検討をおこなっていますか?またその結果について文書化していますか

C.退職給付引当金の算定において、決算期末に数理計算上の差異が多額に生じる場合、当該差異の発生原因を定量的に把握し、分析を行っていますか

期間帰属方法について触れられているのはBですが、まずはB以外について説明します。

Aは弊社のような外部委託先の専門家(年金数理人)が計算を行った場合であっても、委託元のJA等にそもそもの適正な計算書類を作成する責任があるからJA等でも確認をしなさいというものです。

ただ、計算を委託したから外部の専門家が計算した結果があれば良いということではなく、監査を受けるJA等に会計監査人への説明責任があります。弊社とご契約頂いてるJA等には、公認会計士監査の仕組みをご理解頂きつつ、JA等が会計監査人へ退職給付会計の考え方で説明ができるようフォローしていますのでなんとか大丈夫だと思っていますが、外部の専門家に委託したのであれば、委託元は計算過程を説明できなくても良いということではありませんから注意してください。

大森

一言で言うと「数理計算上の差異が発生した原因を調べて、監査法人に説明できるように」というものですが、JA等の特有の事情として、計算した退職給付債務や勤務費用等を各県の都道府県中央会が提供した会計ワークシート等に転記して退職給付引当金を計上することが以前は多かったと思います。

JA等の担当者は事業計画の策定時期や決算に使用する退職給付債務の計算をはじめ、退職給付引当金の処理に関する作業をこなすことが精一杯で「なぜ、この位の数理計算上の差異が発生したのか?」という具体的な問いかけに対して、回答に苦慮することがあります。これは特定のJA等に限った話ではなく、私がJAグループの一員としてJA等の相談を受けていた時と民間に立場を移した今とであまり変わっていないように思います。

これまでの全中監査では中央会がJA等をフォローすることもできましたが、公認会計士監査では監査を受けるのはJA等ということもありますから、JA等から監査法人へ直接、退職給付引当金の計上までの項目に関して説明ができなければなりません(公認会計士監査の際にアドバイザリーの立場である中央会がJA等への監査に同席し、JA等の代わりに説明することは難しいと考えます)。

ただ、Cは専門性の高い業務というよりは慣れと理解でカバーしきれるところで、まだ間に合わせられる話ですから、弊社や各都道府県の中央会をはじめ、JA等へのアドバイザリー経験を持つ監査法人のサポートを受けつつ対応できるようになって頂きたいと思います。

太田 そうですね。それでは本題に戻って、期間帰属方法の設定について説明しましょうか。

はい。ここでもう一度気付事項を引用します。

B.退職給付見込額の期間帰属方法として給付算定式基準を採用している場合、給付算定式に従って計算した給付が著しい後加重となるかどうかについての検討をおこなっていますか?またその結果について文書化していますか

この一文を読んで、何を言っているのか理解できるJA等はほぼないと思います。どういう話かというと、退職給付会計基準が改正された頃の話に遡ります。
*JA等においては2014年度決算を確認頂ければと思います。

退職給付会計基準が改正された当時、退職給付債務の計算の前提である期間帰属方法は「期間定額基準」と「給付算定式基準」のいずれかを選択することとされました。

*期間帰属方法に関する詳細は「期間帰属方法とは」をご確認ください。

このうち、退職金制度がポイント制の場合には、給付算定式基準と名前は同じなのですが、「a.平均ポイント比例と呼ばれる方法」と「b.将来のポイント累計を織り込まない方法」の2つの方法があり、いずれかを選択して、以降の決算に継続的に適用しています。なお、a.の平均ポイント比例と呼ばれる方法については、結果的に期間定額基準と計算結果が等しくなるケースが多いです。

気付事項には「著しい後加重となるかどうか検討しているか?」とありますが、これは「給付算定式基準」を選択しているJA等へのメッセージです。
なお、期間定額基準を採用している場合の他、先に紹介した給付算定式基準の「b.の平均ポイント比例と呼ばれる方法」を選択しているJA等については気にされなくてよい話です。
実際には、JA等において実施している退職金制度ごとに検討が必要となりますが、以下では例として、ポイント制の退職金制度に絞って話をしていきたいと思います。

では、退職金制度がポイント制の場合で「a.将来のポイント累計を織り込まない方法」は何かが問題なのでしょうか?そこまで難しい話ではありませんので確認しましょう。

〈 将来のポイント累計を織り込まない方法の計算方法 〉

この計算方法の特徴は、予想昇給率を計算に用いないことです。 退職給付債務の計算というと、予想昇給率を必ず使用すると誤解しているJA等も多いのですが、この方法では、来期以降に付与されるポイントの増加分を計算に考慮していません。
この方法による退職給付債務の計算プロセスは、以下のように2つのステップで表すことができます。

(1) 期末時点までに付与された累計ポイントに、退職給与規程に定められている自己都合減額率(ただし、期末時点の自己都合減額率ではなく、予想退職時点における自己都合減額率を用いる)および退職確率を乗じる

(2)(1)の額に割引率を使って、期末まで割引計算を行う(現在価値にする)

将来のポイント累計を織り込まない方法の計算方法

*計算ソフトの仕様上、予想昇給率を計算過程で使用することがありますが、誤解しないよう注意が必要です。

〈 平均ポイント比例と呼ばれる方法との違い 〉

平均ポイント比例と呼ばれる方法との違い

通常、ポイント制の退職金制度においては、職員の勤続年数が伸びると勤続ポイントが増加し、昇格すると職能等級に応じた職能ポイントも増加するため、著しいかどうかは別として、基本的には「後加重な制度」になっていると思います。ただし、将来のポイント累計を織り込まない方法では、これらの勤続や昇格による将来のポイントの増加分を、期末時点では考慮していません。

したがって、例えば勤続ポイントが一定の勤続年数以上からが著しく増加したり、職能ポイントが一定の役職以上から著しく増加するという退職金制度ですと、当該ポイントが増加する直前までは債務および費用を一切認識せず、ポイントが著しく増加したタイミングで一気に費用を認識するという形になってしまいます。

そこで、著しく後加重である退職金制度の場合は、「b.将来のポイント累計を織り込まない方法」ではなく、将来の退職時点に付与されうるポイント累計を退職までの各勤務期間において均等に発生させる(期間帰属させる)「a.平均ポイント比例と呼ばれる方法」を選択する必要があります。

先ほど紹介した図をご確認頂くと、「b.将来のポイント累計を織り込まない方法」では入社半ば位から期間帰属させた額(ポイントの加算)が増加していきます。一方、「a.平均ポイント比例と呼ばれる方法」では退職時点に向けて、入社から均等額を加算していきます。(例えば、勤続3年未満の者には退職金が支給されない制度でも、平均ポイント比例では入社から退職給付費用を発生させます)。

a.の平均ポイント比例の方が保守的に退職給付債務を見込んでいると思えませんか?したがって、会計監査人からは、b.の将来のポイント累計を織り込まない方法を選択している場合は、著しい後加重ではないとJA等として判断した理由を求められることがあります。

2014年度決算の頃、退職給付会計基準の改正を踏まえどのように期間帰属方法を検討し決定したのか、また、ポイント制の退職金制度で給付算定式基準(b.将来のポイント累計を織り込まない方法)を採用した結論と背景を、会計監査人から求められた際に提供できるようにしておくことが望ましいと考えます。

監査を受ける民間企業等が公認会計士監査において、「著しい後加重に該当するかどうか」について監査法人から検討を求められるのは、主にa.これまで簡便法により自己都合要支給額ベースで退職給付債務を計算していたところ、監査法人との協議の結果、従業員数の増加により原則法での計算が必要となった場合や、b.国際会計基準(IFRS)を適用することにより、日本基準では簡便法で計算していた企業が原則法で計算する必要に迫られた場合です。

ただ、ほとんどのJA等は公認会計士監査を受けるのが初めてですが、全中監査を受けていますので、2014年度決算当時に期間帰属方法について、どのように検討し、決定したかといったプロセスが担当部署で保管されていれば確認しておくことをお勧めします。

この“著しい後加重”について、太田さんは監査法人系コンサルティングファームでの経験もありますし、かなりの数の計算を経験していると思いますが、どのようにお考えですか。

「著しい後加重に該当するかどうか」については、会計基準や実務基準において具体的な基準が定められていないため、判断が非常に難しいと思います。実際、人によって考え方が異なると思いますが、判断材料としては、例えば以下のような観点からの検討が考えられるかと思います。

太田

(ア) ポイントテーブルにおいて、最低ポイントと最高ポイントに大きな格差があるか
(イ) 入社~定年までの累計ポイントのモデルを作成し、後半のカーブが急となっているか、大きな階段(格差)となっている部分があるか
(ウ) 給与と比べて大きな格差があるかどうか
(エ) a.の平均ポイント比例による退職給付債務(および勤務費用)と比較して、計算結果に大きな差異があるかどうか

なお、例えば(ア)の観点から検討を行うとしても、どれくらいの格差があったら「著しい」に該当するかの基準はないため、そこがまた難しいんですけどね。そういった意味では、これは個人的な意見ですが、(エ)の観点から検討を行い、「会計上の重要な差異があるかどうか」といった点を踏まえて判断するのが望ましいのではないかと思っています。ただし、a.の平均ポイント比例による計算も行うと通常はコストが増えることから、現実的にはそこまでやっているケースは多くないと思いますが。

大森 そうですね。全中監査を受けていたこともありますし、(エ)まではやりすぎかなと思います。個人的には(ウ)の在職中の給与の伸びと比べてどうかというのは理解しやすいものでした。また、今回はポイント制の退職金制度を例にしておりますが、給付算定式基準における「著しい後加重」以外は、期間帰属方法について検証しなくてもよいかというとそうではありません。
大森 ここは基準改正前後を知る太田さんとしてどう考えていますか?

まず大前提として、会計基準の中では「全勤務期間」に関しての定義や説明はありません。少し細かくなりますが、以下では実務基準(数理実務ガイダンス)を引用しながら話したいと思います。

改正前の実務基準においては、「退職給付の打切り支給を行っている場合には、打切り支給後の期間は勤務期間に含めない」といった記載はありましたが、頭打ちに関しては特段記載がありませんでした。このため、退職金制度に頭打ちがある場合であっても、頭打ち年齢以上の期間も全勤務期間に含めていたケースが多かったのではないかと思います。

退職給付会計基準の改正を受けて、2012年に実務基準が全文改定されましたが、その際に教育的資料として「数理実務ガイダンス」が新たに公表されました。数理実務ガイダンスの中では、全勤務期間に含まれないと考えられる例をいくつか挙げており、その中の1つとして「頭打ち年齢以上の期間」があります。なお、従来の「入社~60歳までの期間」とする考え方が否定されているわけではないため、従来の方法で計算しているケースもありますが、個人的には「頭打ち年齢以上の期間」は含めない方がいいのかなと思っています。

<数理実務ガイダンス5.2.1 一部抜粋>

全勤務期間は、入社から退職見込時期までの期間を表すものと考えられる他に、給付額の計算の基礎として用いられる期間を指していると考えることができる。
後者の場合、例えば、次のような期間は全勤務期間に含まれないと考えられる。

4.特定の年齢以上の勤務期間が給付額の計算の基礎として用いられない場合における、当該特定の年齢以上の勤務期間
(『退職給付会計に関する数理実務ガイダンス』公益社団法人 日本年金数理人会、公益社団法人 日本アクチュアリー会 から抜粋)

大森 全勤務期間の捉え方で退職給付債務が大きく変動することもあり、給付算定式基準の著しい後加重と同じく、監査を受けるJA等として判断した論拠は必要で、論拠が組合内で確認できないという場合は会計監査人に説明するにもできませんので、外部の専門家にも相談したほうが良いですね。

 

第2回のインタビューでは、主に「給付算定式基準における著しい後加重」に焦点を当てましたが、そもそも給付算定式基準を適用している場合には、「正しく計算されているかどうか」について注意が必要です。期間定額基準の場合は、全勤務期間をどう捉えるかという論点はありますが、計算のロジック自体は非常にシンプルですので、計算間違いというのは基本的にはないかと思います。一方で給付算定基準の場合は、そもそも何を「給付算定式」と捉えるかの判断が難しいケースもありますし、実際にあやしいケースは何度か見てきましたね。

太田
大森

経験則の話になるのですが、併せ給付があるJA等は少なくとも公認会計士監査を受ける前に相談頂きたいですね。合併の経緯や経過措置など頭に入れることが多いです。

今回は、「JAは退職給付債務の専門家による検証を受けるべきか?」というテーマで話をしてきました。マニアックな話だと思われてしまいそうですが、図表を確認しながら読んで頂ければ幸いです。

では、インタビューもそろそろまとめたいと思いますのでまず太田さん一言お願いします。

私自身、もう10年近く前になってしまうのですが、全共連(JA共済連)でJA等の退職給付債務の計算や企業年金の数理計算業務を行っておりました。JAグループ出身の数少ない年金数理人の1人として、今回の公認会計士監査の導入に関しては、非常に関心を持っております。

前職では監査法人系コンサルティングファームにおいて、退職給付債務の監査補助業務にも携わってきましたので、今までの計算実務や監査補助の経験を活かして、まずは無事に公認会計士監査をクリアできるよう、JA等の皆さまのお役に立てればと思っております。

ありがとうございます。では大森さんも一言お願いします。

関係各所への情報収集や説明を行ってきて、JAグループ内に退職給付債務の妥当性の検証をはじめ、JA等の事情を理解していて、退職給付に関する課題をワンストップで解決できる部門がありませんでした。今は民間の立場ですが太田をはじめ他の年金数理人の協力も得て、極力、JA等に負担をかけない方針で対応しています。 稼働した当初は弊社をご存じないJA等も多く、色々と苦労もありましたが連合会や中央会から弊社の姿勢をご理解頂くことも増え、対応しているJA等からもご信頼を頂けるようになりました。

今は公認会計士監査前の体制支援が目立っておりますが、ご信頼頂いているJA等の期待に応えられるよう様々なサービスを提供してまいります。

 

JA退職給付監査対策室

全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)全国本部出身のコンサルタント、年金数理人を中心に農業協同組合、農業協同組合連合会、農業協同組合中央会へ公認会計士監査に向けた体制強化支援をはじめ、合併構想における退職金制度・企業年金制度の統合支援、自己改革に伴う人事制度改革(退職金制度、企業年金制度の再設計)、企業年金制度運営に関するコンサルティングを行っています。

 

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