厚労省の確定給付企業年金のガバナンスに関する見直しとは

目次
ガバナンスに関する見直しと内容
現在、厚労省が確定給付企業年金(DB)のガバナンスに関する見直しを行っていることをご存知でしょうか?
2012年に発覚したAIJ事件の年金喪失事件を契機に、厚生年金基金のガバナンスの見直しが行われましたが、今回は、DBのガバナンスの見直しが行われています。
現時点で、厚労省においてDBのガバナンスにおいて見直しが議論されている項目は下記の通りで、主に年金資産運用に関するルールの見直しが中心となっています。
(1)政策的資産構成割合策定の義務化 (2)確定給付企業年金資産運用ガイドライン(DBガイドライン)の見直し a. 資産規模100億円以上の企業年金への資産運用委員会設置の義務化 b. 分散型投資の徹底(※) c. オルタナティブ投資に関する留意事項(※) d. 運用受託機関の選任・契約締結(※) e. 運用コンサルタント(※) f. 代議員会・加入者への報告・周知事項(※) 注:※印が付されている事項は、厚年基金ガイドライン(厚生年金基金の資産運用関係者の役割および責任に関するガイドライン)に準じる見直しが検討されている。 |
社会保障審議会・企業年金部会の議事録を見ますと、今回のDBガバナンス見直しの対象は、DBガバナンス構築に関して、基金型DBと比べ構築が遅れている規約型DBを主眼としており、規約型DBの運営責任者、スタッフは留意が必要です。
DBの運営は、規制産業である生命保険業務の一部を、自社で行うことに相当するとも言われます。よって、DBガバナンス構築にあたっては、自社の本業とは性質の異なる業務を管理する体制を構築しなければならないことから相応の負担が必要となることを認識する必要があります。
上記のような負担を伴うDBガバナンス構築に向け、DBの運営責任者、スタッフは、本件に関しての情報収集が、今後、必要になるものと思われます。
確定給付企業年金の改正内容(DBガバナンスに係る部分)
2016年12月14日に、確定給付企業年金法令の改正について、厚労省より公表されました(施行日2017年1月1日)。
確定給付企業年金法の改正事項のうち、DBガバナンスに係る部分について、お話しします。
今回のDB法令の改正内容は、下記の通りです。
◆ 事業主及び基金は、基本方針(注1)の作成、変更の際、加入者から意見を聴かなければならなくなった。 注1:積立金の運用に関して、運用の目的その他厚生労働省令で定める事項を記載した基本方針「加入者の数が300人未満かつ資産の額が3億円未満の規約型DB」および「受託保証型」については、基本方針の作成が義務づけられていない。 ◆ 事業主及び基金は、基本方針を作成、変更した際、加入者に周知しなければならなくなった。 |
すなわち、年金資産運用の意思決定プロセスの一部において、加入者の参画が義務化されることになりました。
今回のDB法の改正では、意見を聴く方法、周知の方法についても、下記の通り定められました(抜粋)。
◆ 意見を聴く方法 (1)加入者の代表を選任し、当該代表者が参画する委員会で、基本方針の作成または、変更する際に当該代表者に意見を述べる機会を与える方法 (2)年一回以上、基本方針に関して、当該代表者に意見を述べる機会を与える方法(注2) 注2:専門的知識および経験のある代理人に意見を述べさせることも可能。 (3)代議員会の議決を経る方法(基金型のみ) ◆ 周知の方法(リスク分担型企業年金を除く) 業務概況を用いた周知(注3)により行うこともできる。 注3:業務概況の周知とは、企業年金制度の状況を、毎事業年度1回以上、法令に定められた内容および方法により、加入者及び受給権者に情報開示すること。) |
基本方針について
今回、作成、変更の際に加入者の意見を聴き、周知することになった基本方針ですが、この基本方針に記載すべき事項は、法令で下記の通り定められています。
(1) 運用の目的、運用目標、資産構成に関する事項 (2) 運用受託機関の選任に関する事項 (3) 運用業務に関する報告の内容及び方法に関する事項 (4) 運用受託機関の評価に関する事項 (5) 運用業務に関する事項 |
一般的には、上記(1)の資産構成は、財政再計算(3~5年ごと)のタイミングで、変更がなされることが多いので、財政再計算の際に資産構成の変更を行う場合には、加入者から意見を聴き、周知する必要が出てまいります。
また、今後、年金ガバナンス規制の見直しがなされた場合も、基本方針の変更が必要になる場合もあると思われます。
今回の確定給付企業年金法の改正は、「努力義務」ではなく、「義務」となりましたので、確定給付企業年金運営の責任者、スタッフは、遺漏のない対応が必要となることに留意が必要です。なお、本件に関しての法令解釈は、総幹事によって異なるようですので、一社のみならず、複数社に照会し、対応方針を定めるのが無難と思われます。
次に、法令改正と同時に厚生労働省から公表された「業務報告書(注1)様式の変更」のうち、資産運用状況に関する部分についてご紹介します(リスク分担型企業年金に関わる部分は除く)。
注1:確定給付企業年金の事業に関する報告書。決算日を基準として作成し、地方厚生局長等に提出する。事業報告書では、適用状況、給付状況、掛金拠出状況、年金通算状況および資産運用状況について報告する。毎事業年度終了後4ヶ月以内に厚生労働大臣に提出しなければならない。
資産運用状況に係る業務報告書様式の変更内容
(1)政策的資産構成割合等の変更内容
A.構成割合の資産区分において「短期資産」が追加された
【 新 】

【 旧 】

B.「予定利率」を記載する欄が設けられた
C.「資産運用委員会の設置の有無」を記載する欄が設けられた
(2)資産別残高および資産構成割合の変更内容
A.その他資産の内訳区分が変更された
【 新 】

【 旧 】

(3)運用機関別資産残高等の変更内容
A.「総幹事」及び「運用コンサルタント」の会社名を記載する欄が設けられた
B.伝統的四資産(注2)を運用スタイルの「パッシブ」及び「その他」で区分し、運用委託先ごとの時価金額及び構成比率を記載する表が設けられた。また、「バランス型運用」、「一般勘定」及び「その他」の運用における運用委託先ごとの時価金額及び構成比率、を記載する表が設けられた。
注2:国内債券、国内株式、外国債券、外国株式の四資産
施行日
2017年1月1日
ただし、事業年度の末日が2018年3月31日である事業年度に係る事業及び決算に関する報告書の提出に当たっては、改正後の法令に基づき財政計算を行った場合を除き、改正前の様式を持ちいるこができるとする経過措置が設けられています。
資産運用状況に係る業務報告書様式の変更の背景
今回の業務内容報告書の様式の変更は、リスク対応掛金及びリスク分担型企業年金の導入と同時になされています。
内容的には、社会保障審議会・企業年金部会における、企業年金ガバナンスの見直し議論の一部が反映されました。
今回の資産運用状況に係る業務報告書様式の変更を契機に、企業年金ガバナンスの見直しに取り組まれるのは企業年金ガバナンスの向上に資するものと思われます。