退職給付会計の実務とは-1-退職給付会計って何だろう?

日本に退職給付会計が導入されて15年が経ち、会計や業務に関する情報も探せばすぐに見つかる時代となりましたが、未だに複雑で難しいという声を多く耳にします。 でも、実は基本的な実務の知識をおさえるだけで、退職給付会計がより身近に感じられるようになります。 本コラムでは、人事・経理の担当者目線で、退職給付会計の実務を解説していきます。
目次
- 1 :確定給付型と確定拠出型の違い
- 2 :退職給付会計のゴール
実務の解説する前に、少しだけ退職給付会計のおさらいです。
退職金や企業年金を実施している企業は、従業員が一定期間にわたり労働を提供してくれたお返しとして、退職以後に退職金を支給する義務をおっています。 この退職以後に支給される退職金等の給付を総じて「退職給付」といいます。
退職給付は、一般的に勤める年数が増えるほど金額が大きくなるため、退職給付に係るコストや負債もあわせて大きくなっていきます。 企業は、こうした実態を業績評価として決算に反映させ、各期において退職給付にどれだけのコストを要しているのか、利害関係者に示す必要があります。 この反映方法をまとめたのが退職給付会計です。
ここでは、退職給付会計は、企業が退職給付に対しどれだけのコストを要しているのかを測る為のルールと覚えて頂ければ十分です。
確定給付型と確定拠出型の違い
続いて、退職給付会計のターゲットを整理しておきます。
前記の退職給付は、原資の準備形態その特徴により2種類に分けられます。 1つは確定給付型(DB型)、もう1つは確定拠出型(DC型)です。
確定給付型は、勤続期間や給付水準に基づいてあらかじめ給付額が定められている制度です。また、従業員が労働を提供する時期と、その労働に対してキャッシュが支払われる時期がズレていることが特徴です。
その為、労働を提供した期の期末において支払額が確定していませんので、労働の提供に伴い企業側に発生している退職給付の支払義務を債務(退職給付債務)として認識し、負債として計上(退職給付引当金)する必要があります。
なお、確定給付型の制度としては、退職一時金制度、確定給付企業年金制度、厚生年金基金制度があげられます。 退職給付会計は、この確定給付型の退職給付制度をメインターゲットとしています。
一方、確定拠出型(DC型)は、拠出した掛金とその運用収益から事後的に給付額が定まる制度です。労働を提供する時期とその労働に対してキャッシュを支払う時期が基本的に一致しており、かつ、労働を提供する期の期末においてキャッシュの支払額が確定しているため、給与と同じような取扱いが可能なのです。
よって、給与と同様に、「労働を提供する時期=その労働に対してキャッシュを支払う時期」にそのキャッシュを費用として計上すれば良いことになります。
なお、確定拠出型の制度としては、確定拠出年金制度(DC、401k)、中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度があげられます。
退職給付会計のゴール
最後に、退職給付会計のゴールを簡単に解説しておきましょう。
退職給付会計のゴールは、退職給付から生じる負債、すなわち退職給付引当金を計算して計上する事です。
退職給付引当金は、退職給付の支払義務を評価した金額(退職給付債務)から、退職給付のために積立られた資産の金額(年金資産)を控除することで求められますが、その他に未認識項目の加減が必要です。未認識項目について触れると長くなるので説明は省略しますが、興味があれば、こちら をご覧ください。
年金資産は期末時点の残高を金融機関に照会することでわかりますが、退職給付債務は複雑な数理計算により求めます。 実は、退職給付会計の実務は、この退職給付債務の計算に関する業務が全体の8割を占めています。
よって、退職給付債務の計算実務がわかってしまえば、ほぼ退職給付会計の実務を理解できたと言っても過言ではありません。
次回は退職給付会計業務の全体像について解説していきたいと思います。
※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。
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