資産所得倍増プランにおいて期待される企業の役割 ~雇用者のWell-Beingを実現するために~

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資産所得倍増プランにおいて期待される企業の役割 ~雇用者のWell-Beingを実現するために~

  • 自らの利益を顧客の利益に優先することなく顧客の最善の利益に従って行動すること
  • プリンシプル(原則)ではなく、ハード・ロー(強制力のある法)として定める
    新聞報道によれば「金融サービスの提供に関する法律」の改正とされている
  • 金融事業者だけでなく広く横断的に企業年金制度の運営者も対象となる
    DB(基金型・規約型)だけでなく企業型DCも対象となることに留意

(2)現行法制との関連

こうした動きは、企業年金(DB(基金型/規約型)・企業型DC)の運営に携わっておられる皆さんにとって、「根耳に水」の話ではないかと思われます。

説明するまでもなく、企業年金の運営に携わる皆さんは、受託者責任が企業年金制度運営の中核的なルールであることを認識され、日々業務運営を進めておられると思います。表-4の通りDB法・DC法をはじめとして、企業年金の運営に携わる皆さんには、忠実義務など法令上の義務と責任が課されており、「屋上屋を架す」ものではないかという疑問を持たれるのも、当然のことと思います。

この点について、TF中間報告では「金融商品取引法において規定されている誠実公正義務は、証券監督者国際機構が定めた証券業者に関する行為規範原則を取り込んだものだが、その原則にあった『最善利益義務』の文言が取り込まれておらず、『最善利益義務』が含まれているかは明確でない。」ため「これを法律上定めることで、誠実公正義務に内包されるべき『最善利益義務』が明確化されるとも考えられる。5」と説明しています。

他方で、企業年金制度の所管官庁である厚生労働省は、2022年12月7日に開かれた第20回企業年金個人年金部会において、 大竹企業年金個人年金課長は「(表-4のDB/DCに係る義務を説明したうえで)、金融庁を中心に顧客本位TFで議論されている内容につきましても、何か新しい義務とか規制を定めるというよりは、現在規定されている忠実義務の範囲で理念的に規定して、取組を求める6」ものとして説明しています。

(表-4)企業年金関係者等に課されている忠実義務等

企業年金(DB) 忠実義務
善管注意義務(民法類推適用)
DB69(規約)/70(基金)
運用ガイドライン等
DB年金運用受託機関 忠実義務 DB71(規約)/72(基金)
企業年金(DC) 忠実義務 DC43
法令解釈通知
DC運営管理機関 忠実義務 DC44
投資運用/投資助言業者 忠実義務・善管注意義務 金商41/42
金融商品取引業者 誠実公正義務 金商36

※DB/DCは運用ガイドライン/法令解釈通知で制度運営上留意すべき義務を具体的に規定


4 金融審議会市場制度ワーキング・グループ顧客本位「TF中間報告」2022年12月9日
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221209/01.pdf

5 脚注4「TF中間報告」P2脚注2
6 第20回 社会保障審議会企業年金・個人年金部会 議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29957.html

最後に

倍増プランは公表されたばかりであり、各施策についての内容は、これから具体化されていくものと思われます。引き続き、倍増プランで言及された従業員の資産形成のための支援策の動向や、企業年金に課される「最善利益義務」の法制化の進捗状況等についてフォローし、企業の経営や企業年金の運営に携っておられる皆さんに、情報提供していきたいと考えております。

本稿で取り上げました話題について、皆様から、ご意見、ご質問のほか、お困りごとについてもご相談をいただけますと幸いです。

尚、本稿の内容は筆者個人の見解で、所属組織の見解ではないことを申し添えます。

※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。

矢部イメージ この記事を書いた人

取締役
公益社団法人日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)

矢部 信

1977年に一橋大学社会学部を卒業。
日本債券信用銀行に入行、法人営業などのほか、債券運用を中心に銀行の証券業務に長期に亘り携わることができました。その後、1999年から東京海上アセットマネジメント投信に転職、企業年金・公的年金のクライアントサービスなどの業務に従事し、2014年から厚生労働省年金局企業年金・個人年金課で企業年金資産運用専門官として勤務しました。
2019年4月より公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構特任研究員、同年6月から株式会社IICパートナーズ顧問、2020年9月からIICパートナーズ取締役を務めております。
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