イールドカーブの推定について
目次
- 1 :イールドカーブとは
- 2 :イールドカーブの推定における問題点
- 3 :金利の期間構造モデル
- 4 :適切な見直し
イールドカーブの推定方法や、推定にあたっての論点、とりわけ金利の期間構造モデルについて解説します。
イールドカーブとは
イールドカーブとは、各期間におけるスポット・レート※1の集合です。
一般的に、期間とスポット・レートには関連があると考えられております※2。その前提のもと、横軸を期間、縦軸をスポット・レートとしてプロットしたグラフがイールドカーブということになります。
※1:割引債(満期まで利息の支払がない債券)の利回りのことです。
※2:このことを、金利の期間構造(Term Structure)とも言います。
【 図1:イールドカーブの例 】
期間(年) | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | … |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
スポット・レート | 0.25% | 0.45% | 0.63% | 0.79% | 0.94% | 1.07% | 1.18% | 1.28% | 1.37% | 1.45% | … |
イールドカーブの推定における問題点
イールドカーブは、基準日時点において市場に流通している債券データをもとに推定されます。しかし、推定にあたっては2つの問題点があります。
1つ目の問題点は、債券データの中には割引債以外のデータが多く含まれる、ということです。
市場に流通している債券の多くは、期中に利息の支払のある“利付債”であり、イールドカーブの作成に必要な“割引債”ではありません。そのため、“利付債”のキャッシュフロー等に対して一定の加工を行うことで“割引債”の利回りを算定する必要があります。
また、債券データの中には“利付債”以外にもデリバティブが組み込まれた“仕組み債”等の特殊な債券が含まれることがあります。これらの債券は通常の債券と異なる価格形成を行うと言われており、イールドカーブ作成に用いる債券データからの除外を検討する必要があります。
しかし、1つ目の問題点を解決したとしても、以下のような問題点が残ります。
・ 同一期間であっても異なる利回りの割引債が存在すること
・ 割引債のデータがない期間が存在すること
これらが2つ目の問題点です。この問題点の解決にあたっては、金利の期間構造モデルを用いてイールドカーブを推定することが一般的です。
【 図2:2つ目の問題点のイメージ 】
金利の期間構造モデル
金利の期間構造については複数のモデルが考案されており、イールドカーブの推定にあたっては、適切なモデルを選択して適用する必要があります。日本年金数理人会および日本アクチュアリー会の定める「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」(以下、ガイダンス)では、“パラメトリックなモデル”と“スプラインベースのモデル”の2つが代表的なモデルとして挙げられておりますので、以下、この2つのモデルの考え方および特徴について解説します。
A.パラメトリックなモデル
概要
・ イールドカーブを1つの関数で表現する方法です。言い換えれば、全期間においてイールドカーブは1つの関数で表現できる、という考えに基づいています。
・ ガイダンスでは、Nelson-SiegelモデルとSvenssonモデルの2つが例として示されています。
特徴
・ 実務的に分かりやすい方法です※3。
・ 全期間のスポット・レートを1つの関数で表現するため、期間ごとの利回りの特徴を十分に反映しない場合があります。
※3:細かな算式は割愛しますが、例えば“Nelson-Siegelモデル”の場合、関数のパラメータがイールドカーブの水準、傾き、曲率を直接表現しているため、分析等を行うことが比較的容易です。
【 図3:パラメトリックなモデルのイメージ 】
B.スプラインベースのモデル
概要
・ 区間を区切り、各区間において定めた関数を組み合わせることでイールドカーブを表現する方法です。
・ ガイダンスでは、多項スプラインモデルと指数スプラインモデル、Bスプラインモデルの3つが例として示されています。
特徴
・ 各区間において異なる関数を定めるため、期間ごとの利回りの特徴を反映しやすいと言えます。
・ 区間の区切り方について検討をする必要があります。
【 図4:スプラインベースのモデルのイメージ 】
適切な見直し
解説した2種類のモデルはいずれも一長一短であり、どちらが優れている、といった性質のものではありません。しかしながら、市場環境によって、モデルの当てはまりの良さが変わってくることも事実です。
イールドカーブの推定における金利の期間構造モデルの選択等については、通常は継続して適用する必要がありますが、市場環境の変化等に応じて、より適切な方法を検討することも重要となるでしょう。
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