退職給付会計に関する期を跨ぐ給付の取り扱いについて
退職者への退職金の支払いが翌月払いの会社においては、決算期末に従業員は退職しているが退職金の支払いはまだ支払われていないという状況が起こりうると思われます。この場合、退職給付会計においてどのように会計処理されているのでしょうか。
よくあるパターンを、退職一時金制度からの支払いと確定給付企業年金制度からの支払いに分けて説明したいと思います。(説明・仕訳は日本基準の個別財務諸表を前提にしています。)
目次
1.退職一時金制度からの支払い
決算期末において支払いがまだ済んでいないため、何かしらの負債計上をする必要があります。この負債計上の方法について3パターン紹介します。
(1) 退職給付会計上は支払ったものとし、別途未払金を計上する
この場合、
退職給付引当金 ○○ / 未払金 ○○
の仕訳を行い、退職給付会計上は期中に支払いのある退職者と同じように退職給付引当金を取り崩します。(期中に支払いのある退職者の場合は、相手勘定は現金預金になります。)
そして、翌期の実際の支払い時には
未払金 ○○ / 現金預金 ○○
の仕訳をします。
(2) 退職給付会計上まだ支払われていないものとする(支払額を債務に計上)
この場合、退職給付引当金は取崩さず、他の在籍する従業員と同様、退職給付債務として認識します。ただし、この退職者への支払額は確定しているため、数理計算した結果である退職給付債務ではなく、その支払額を退職給付債務として認識します。
(3) 退職給付会計上まだ支払われていないものとする(退職給付債務の額を債務に計上)
この場合、退職給付引当金は取崩さず、他の在籍する従業員と同様、退職者についても数理計算した結果である退職給付債務を認識します。
(1)(2)は退職者に関する数理計算上の差異(退職給付債務と支払額の差額)を当期に認識するのに対し、(3)は翌期に認識するという違いが発生します。
弊社に計算を委託されている会社様では、(期末前に計算した結果を補正するのではなく)期末時点で退職給付債務を計算することもあり、(1)の方法を採用されているケースが多いように思われます。
2.確定給付企業年金制度からの支払い
退職給付引当金が「退職給付債務-年金資産±未認識項目に関する債務」として算出され、確定給付企業年金制度からの支払いは年金資産から支払われることに留意すると、退職給付債務と年金資産の間で不整合が起きないように処理する必要があります。
この方法について3パターン紹介します。なお、確定給付企業年金制度からの支払いの場合、支払い時においての仕訳は必要ありません。
(1) 退職給付会計上は支払ったものとし、年金資産(期末の時価相当額)から支払額を控除した後の額を期末の年金資産とする
この場合、退職給付債務にはこの退職者の分は含まず、一方、年金資産から支払額を控除することにより、期中の退職者と同じ取り扱いをします。
ただし、この場合、期末の残高確認書の年金資産の額と退職給付会計上の年金資産の額が異なることになりますので、監査法人への説明等に注意する必要があります。
(2) 退職給付会計上まだ支払われていないものとする(支払額を債務に計上)
この場合、他の在籍する従業員と同様、退職給付債務として認識します。ただし、この退職者への支払額は確定しているため、数理計算した結果である退職給付債務ではなく、その支払額を退職給付債務として認識します。一方、年金資産は何も調整せず、期末の時価相当額を年金資産として認識します。
(3) 退職給付会計上まだ支払われていないものとする(退職給付債務の額を債務に計上)
この場合、他の在籍する従業員と同様、退職者についても数理計算した結果である退職給付債務を認識します。一方、年金資産は何も調整せず、期末の時価相当額を年金資産として認識します。
※(1)(2)は退職者に関する数理計算上の差異(退職給付債務と支払額の差額)を当期に認識するのに対し、(3)は翌期に認識するという違いが発生します。
弊社に計算を委託されている会社様では、(2)の方法を採用されているケースが多いように思われます。