退職給付会計の長期予測

最近では機械学習、いわゆるAIについてのニュースをよく耳にするところですが、データを分析して学習し、状況判断をしたり将来の予測をしたりする手法が随分と発達してきているようです。
我々アクチュアリーも、同じように将来の事象の予測のために、統計学を使って別の方法でアプローチをしてきました。
ですので、最近のブームはとてもワクワクさせられるものでもあります。将来は年金数理の世界も少なからず影響を受けるかもしれません。
さて、今回のコラムでは、AIではなく古くからある技術ではありますが、退職給付会計の長期予測サービスを紹介します。サービス提供会社により細かな違いありますが、通常は将来数年間にわたり退職給付債務等の数値やキャッシュフローのシミュレーションを行います。
退職給付債務と長期予測
もともと退職給付債務というのは、将来のキャッシュフローを予測して、現時点でどのくらいの債務が存在するのかという計算をしています。
したがって、退職給付債務計算のシステムを少し改良すると、将来のシミュレーション(長期予測)ができるようになるので、多くの計算受託機関等で長期予測のサービスを行っています。
例えば年金・退職金制度の変更の時などは、この長期予測を利用して将来の費用をシミュレーションし、判断材料にすることが多いかと思いますが、ほかにもいろいろと使い道があるので紹介します。
使用例ⅰ 中期計画
例えば3年程度の経営計画を立てる機会はあろうかと思います。また、公的機関等においては、何らかの意思決定の際、長期シミュレーションを求められることも多いかと思います。このようなとき、退職給付関連費用について、例えば一定の水準が続くと見込むなど、大雑把に想定していることが多いようです。
しかしながら、割引率の低下や、定年退職者の増加を織り込みたい場合など、長期予測を利用するとより精緻なシミュレーションが可能です。
また、定年間際の人が多く見込まれる場合など、退職金のキャッシュフローを予測することで、支払いの準備をしておくことが可能です。
使用例ⅱ 採用計画
歴史の古い企業では高年齢の従業員が定年に迫ってきていたり、逆に新興企業では人の入れ替わりが激しかったりして、人員規模の維持が難しいことがあります。
長期予測では、退職給付債務等のシミュレーションを行う過程で、将来の人員構成を予測しています。この際、毎年の新規入社人数を指定したり、逆に一定の人数になるように新規入社人数を自動計算したりすることができます。
この結果を利用すると、年度ごとにどのような年齢の従業員を、何人採用すれば良いか等シミュレーションが可能です。
使用例ⅲ 人件費のシミュレーション
長期予測を利用すると将来の昇給や年齢構成を織り込んだ給与の予測が可能です。
したがって、人件費として退職給付費用だけでなく、給与や社会保険料等のシミュレーションにも使うことが可能です。
給与制度の改定時や社会保険料の変動が見込まれる場合には、長期予測を利用して検討することが考えられます。
※当コラムには、執筆した弊社コンサルタントの個人的見解も含まれております。あらかじめご了承ください。