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退職給付会計業務のリスクとコントロール~退職給付会計における内部統制 -4-

お客様と共にシステム開発やサービス提供を行ってきた経験から退職給付会計業務における内部統制のエッセンスをお伝えしたいと思います。今回は、退職給付会計業務のリスクとコントロールについて、例をあげながら解説します。解説を見る→

IICパートナーズ コンサルタント 八丁 宏志
著者プロフィール
掲載日:2014年5月28日

解説

先に紹介した方法でリスクは比較的容易に見つけ出す事ができます。しかし、リスクを見つけ出した事だけでは残念ながら内部統制を構築している事にはなりません。

大切なのは見つけ出したリスクを適切に制御(コントロール)する事です。何が適切なのかという判断はまちまちですが、誤解を恐れずに言うのであれば、想定したリスクによる事象が発生した場合に、ステークホルダーから「しょうがない」と思われるか否かです(想定外であったり、リスクを自分でコントロールできないという事も内部統制の限界です)。

なぜならば、リスクは可能性の問題ですので、最小限に抑える事はできても完全になくすことができません。その為、どこまで抑制していくのかという視点が必要になります。

データ作成業務に見るリスクとコントロール

では、従業員データの作成という業務を例に考えていきましょう。従業員データは退職給付債務の計算に使用されます。従業員データの間違いは、退職給付債務の誤り、退職給付引当金(退職給付費用)の誤りといった具合に連鎖していきますので、正確なデータを作成する必要があります。

作成すべき従業員データは次の通りです。
対象者:基準日時点で在籍している社員(退職金規程上の対象者)
従業員データの項目:
 

考えられるリスク

次のようなリスクが考えられます。

計算対象者を間違えるリスク
  • 計算対象となる従業員にも関わらず、従業員データが作成されないリスク
  • 計算対象外となる役員にも関わらず、従業員データが作成されてしまうリスク
データを間違えるリスク
  • 誤った性別を入力するリスク
  • 誤った生年月日を入力するリスク
  • 誤った入社年月日を入力するリスク
  • 誤った単年度ポイントを入力するリスク
  • 誤ったポイント累計を入力するリスク

適正な財務情報を作成するための要件と合わせてみると、「計算対象を間違えるリスク」については、実在性(資産及び負債が実際に存在していること)と網羅性(計上すべき資産、負債を記録していること)に、「データを間違えるリスク」は評価の妥当性(資産及び負債を適切な価額で計上していること)に該当し、これらのリスクが発生した場合、適正な財務諸表を作成しているという要件を満たしていないという評価ができます。

発見的コントロール

では、これらのリスクを抑制する為のコントロールを考えていきましょう。まずは発見的コントロールから取り上げましょう。発見的コントロールは日常においては、「検証」とか「確認」という言葉で業務の一環として組み込まれています。

例えば「計算対象となる従業員にも関わらず、従業員データが作成されないリスク」を抑制するには、少なくとも事後に誰かが間違いに気づいて修正できればよいので、「上長(検証担当者)が、従業員データと社員名簿(社員情報管理リスト等)を照合し、照合確認した事の証として従業員データ作成書に押印する」といったコントロールがあれば概ね問題ないでしょう。

また、「データを間違えるリスク全般」においては、「上長(検証担当者)が、従業員データの各平均および合計と社員名簿(社員情報管理リスト等)の各平均及び合計を照合し、照合確認した事の証として従業員データ作成書に押印する」といったコントロールになると思います。

従業員データの作成業務が、退職給付会計の諸数値に与える影響度によって、検証担当者や検証作業を増やすなどの処置をとります。例えば、データを間違えるリスクの抑制が重要であれば、平均あるいは合計した値との照合とは別に、「検証担当者も一から従業員データを作成し、作成担当者が作成した従業員データと照合する」というコントロールを追加する事も考えられます。

予防的コントロール

次に、予防的コントロールを考えましょう。予防的コントロールはリスクの発生を未然に防ぐための措置や作業が該当します。

今回で言えば、従業員データの項目として掲載した先の表の説明書きが予防的コントロールとして考えられます。他の言い方をするとマニュアルや作業説明書といったところでしょうか。作成するデータの内容や手順が記載されているものがあれば、作業者はそれに則り作業をすればよいので、何の説明もない状況から作るよりも、格段にリスクを抑制する事ができます(性別を1男性、2女性としていますが、説明がなければ1と2をとり違うかもしれません)。

また、一からデータを作るよりも、社員名簿から従業員データが抽出できるようになっていれば、転記ミスといった誤りも防ぐ事ができます。 
一覧

リスクもコントロールもまずは自身で想定している範囲内で手を動かしてみる、書き起こしてみる事から始めてみて下さい。初めから、あれも、これも、全てを網羅しなければならないとの観点で積み上げていく作業は無駄です。リスクでないものをリスクとして認識し、意味のないコントロールとしてコストを重ねるだけなので、注意しましょう。


掲載日:2014年5月28日

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