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退職金・年金情報【統計レポート】-1-従業員1人あたりの退職給付費用

日頃、お客様より、自社の退職金・年金に関する現状の把握や評価が難しいという声を頂戴することがあります。特に、自社の退職金・年金の立ち位置を知るうえで、同業他社との比較は重要でしょう。同業他社データを踏まえ、自社の退職金・年金が目指す理想の立ち位置を明確化し、これと現状とのギャップを把握すれば、今後の課題が見えてきます。

退職金・年金関係の開示を含め、決算開示データは、膨大な労力を費やして作成されていることはご存じの通りですが、投資家だけでなく、一事業会社としても開示データを有効活用することができるはずです。

本レポートでは、決算開示データを用い、上場企業全体だけでなく、業種別の数値を分析し、読者の皆様の会社と比較分析する上での参考となる情報や考え方をお伝えするとともに、投資家目線ではなく、企業サイドとしてどのようなアクションを行うべきかを考えるためのヒントをお伝えすることを意図しております。

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IICパートナーズ 代表 中村 淳一郎
著者プロフィール
掲載日:2018年1月29日

写真:中村淳一郎

分析項目解説のポイント

  1. 「従業員1人あたり退職給付費用」で1人当たりのコスト負担をチェック。全社平均は242千円。サービス・運輸・小売業で低くなっており、同時にこれらの業界で人手不足の傾向あり。

  2. 「退職給付費用の営業利益に対する比率」で、収益力に見合った水準かチェック。全社平均は12%。20%を超えると要注意。

  3. 「退職給付費用の人件費に占める比率」で、人件費のうち退職給付費用への配分をチェック。全社平均は4.2%。配分に関する従業員のニーズとマッチしているかがポイント。

  4. 「退職給付費用のDB型制度分とDC型制度分の比率」で、企業と従業員の運用リスクのシェア状況を確認。全社平均はDB型制度分が82%で、今なお企業負担が大きい。DC移行検討は、業界他社の比率も考慮した上で判断。

  5. 「退職給付債務の純資産に対する比率」で、負債サイドのリスクの大きさをチェック。全社平均は14%。但し、中長期的には金利上昇の可能性があり、負債サイドの下方リスクは限定的か。

  6. 「年金資産構成割合及びリスク量」で、資産サイドのリスクの大きさをチェック。リスク量の全社平均は21%。最もリスク量の小さい外食・飲食サービス業における一般勘定の比率は49%と突出。

解説

退職金・年金情報 統計レポート第一回目は、「従業員1人あたりにかかる退職給付費用」についてです。

従業員1人あたりの退職給付費用

出所:日経バリューサーチ財務データによる有価証券報告書開示数値を弊社加工(n=2,659社)
※「金融」については「銀行」、「証券」、「保険」は含まない(以降、他の分析項目においても同様)


他社と比較しながらコスト負担を考える場合には、従業員数の影響を排除するため、退職給付費用の「総額」よりも「従業員1人当たりの金額」に焦点を当てた方が良いでしょう。

全社平均(上場企業2,659社)ベースの1人当たり退職給付費用の水準は、244千円(2014年度)→228千円(2015年度)→242千円(2016年度)となりました。近年の良好な運用実績に伴い費用の減少傾向が続いてきましたが、マイナス金利環境による割引率の引き下げが、退職給付債務の増加を通じて費用の増加要因になっているものと考えられます。

但し、日銀がマイナス金利政策からイールドカーブコントロールに舵を切り、金利は若干上昇に転じています。今後は、米国の金利追加引上げ等の影響により、日本でも徐々に金利が上昇することが見込まれつつありますので、1人当たり退職給付費用の増加は、長期化しないことが予想されます。

一方、業種別に見ると、上図の通り、資源・エネルギーの461千円を筆頭に、外食・飲食サービスの114千円まで4倍の差がついており、業種次第で自社の立ち位置がかなり変わりますので注意が必要です。

なお、自社の1人当たり退職給付費用が過大であると判断した場合、制度の見直しや給付水準の引き下げを行うことが考えられますが、人材確保面(採用・定着)において悪影響が出ないよう配慮する必要があります。特に、下図のように人材不足に直面している業種においては慎重な判断が必要です。

【従業員が「不足」している上位10 業種】

順位 業種 不足企業の割合(注)
1 情報サービス 70.9%
2 メンテナンス・警備・検査 64.3%
3 運輸・倉庫 63.7%
4 建設 63.5%
5 リース・賃貸 63.0%
6 再生資源卸売 62.5%
7 電気・ガス・水道・熱供給 60.0%
8 家電・情報機器小売 59.0%
9 金融 58.6%
10 自動車・同部品小売 58.2%

出所:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2017年10月 n=10,214社)」より抜粋
(注):正社員について「非常に不足」「不足」「やや不足」と回答した企業の割合

むしろ、1人当たりの退職給付費用が大きいということは、給付水準も高めの水準になっている可能性が高いと考えられます。この事実を確認した上で、従業員や採用候補者に対して、自社の充実した退職金・年金制度への理解が深まるような説明を行うことによって、退職金・年金を人材確保に役立てるスタンスもあるでしょう。

さらに、上図『1人当たり退職給付費用』及び『従業員が「不足」している上位10 業種』を照らし合わせると、1人当たり退職給付費用が低く、かつ、人材不足感が強い業種、例えば、サービス業、運輸業あるいは小売業が浮かび上がってきます。こういった業界では、退職金・年金の給付水準を引き上げ、これを従業員や採用候補者にアピールすることで人材不足という課題の解消を行う方向性が考えられます。昨今、「賃上げ」が大きなテーマとなっていますが、税金と社会保険料の負担が小さくて済む「退職金・年金の給付水準引上げ」も「賃上げ」と併せて検討すべきなのではないでしょうか。

また、近年のメディア報道により、少子高齢化に伴う公的年金スリム化を背景として老後不安への意識が若年層でも高まっており、今後、充実した退職金・年金が、従業員や採用候補者にとってより魅力的な存在になっていきます。この状況を効果的に活かす経営判断と努力が経営陣はもとより人事・経理・財務そして企業年金の関係者に求められることは自然なことでしょう。


次回は、「退職給付費用の人件費に占める比率」について解説します。


掲載日:2018年1月29日

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