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厚生年金基金の解散や代行返上をめぐる直近の動向

2014年4月に施行された厚生年金基金を原則廃止とする改正法により、厚生年金基金の解散や代行返上が進んでいます。この状況をめぐる直近の動向についてまとめます。解説を見る→

IICパートナーズ コンサルタント 向井 洋平
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掲載日:2016年3月7日

解説

2014年4月に厚生年金基金を原則廃止とする改正法が施行され、厚生年金基金の解散や代行返上が進んでいます。これに応じて、厚生年金基金に加入する各事業所も対応を進めているところです。

こうした厚生年金基金の解散や代行返上をめぐる直近の動向について、まとめておきます。(なお本稿は、商工会議所年金教育センターが発行する『企業年金総合プランナー』第27号に寄稿した内容を一部編集したものです。)

厚生年金基金制度の廃止

一時は基金数1800、加入者数1200万人を超えるまでに普及していた厚生年金基金制度ですが、2014年度に施行された改正法により、その役割を終えようとしています。同種同業の中小企業が多数集まって設立された総合型基金において、運用損失による積立不足が代行部分にまで食い込む「代行割れ」が多数発生し、事業所の連鎖倒産や厚生年金本体の財政への悪影響が懸念されたことから、抜本的な制度改正が行われたためです。

この改正により、2014年4月以降新たに厚生年金基金を設立することは認められなくなり、既存の基金についても5年の移行期間のうちに原則として解散または代行返上することが求められています。財政状況が健全な基金については5年経過後も存続が認められますが、代行部分の債務の1.5倍または最低積立基準額以上の積立水準を確保する必要があるなど高いハードルが設けられているため、ほとんどの基金にとっては現実的な選択肢ではありません。

厚生年金基金の動向

法施行直前の2014年3月末現在の基金数は531(このうち466基金が総合型基金)でしたが、制度改正を受けて解散や代行返上が進み、2016年1月末現在では320基金となっています。また、このうち183基金については解散内諾済み、109基金については代行返上内諾済みであり、存続の可能性を残しているのは28基金にまで減少しています(下図参照)。

存続困難な総合型基金にとって取りうる選択肢は主に以下の3つです。

1.解散し、資産を分配して終了

単純な解散であり、代行部分の資産を国に返還したうえで、残余財産を加入員及び受給権者に分配します。基金としては後継制度を用意しないため、その後の対応については各事業所に委ねられることになります。

なお、代行割れしている基金では、納付額の特例(代行部分の資産返還額の計算方法に関する特例)及び納付猶予の特例(資産の返還を一括ではなく分割で行う特例)を受けることができる「特例解散」を選択しているケースが一般的と考えられます。この場合、基金の保有資産の全額が国に納付されることとなるため、加入員や受給権者に対する残余財産の分配はありません。

2.代行返上

代行部分の資産を国に返還したうえで、すべての加入員及び受給権者について上乗せ部分だけの確定給付企業年金(DB)に移行します。代行返上にあたっては、年金財政の安定化のために、予定利率を引き下げたり、給付設計をキャッシュバランスプランに変更するケースが多くなっています。

代行返上を実施するうえで障害となるのは、全事業所から同意を得る必要があることです。1つでも代行返上に同意しない事業所があると実施できないことから、代行返上を希望するグループと希望しないグループに基金を分割し、その直後に一方は代行返上し、もう一方は解散するというスキームをとるケースもあります。

3.一旦解散したうえでDBを新設

代行返上の場合、上記のように全事業所から同意を得る必要があるほか、従前の上乗せ部分に対する積立不足を解消するため、事業主の掛金負担が過大になってしまうことがあります。これを回避するため、一旦基金を解散したうえで受け皿となる新しいDBを設け、加入を希望する事業所について残余財産の分配金を引き継ぐ方法をとる基金もあります。

このスキームでは、代行返上と異なり受給権者の給付を引き継ぐ必要はなく、加入者についても受け入れた分配金に応じた給付を引き継ぐことになるため、積立不足のない状態で制度を立ち上げることができます。また、新しいDBに加入するかどうかは事業所ごとに判断することになります。

当初は代行返上を目指していたものの、各事業所の多様なニーズに応えることが困難なことから「一旦解散してDBを新設」に方針転換した基金もあり、解散とともにDBを新設するケースが相次いでいます。また、これと似たスキームとして、まず新しいDBを設けたうえで希望する事業所(及び受給権者)についてはDBに移行(上乗せ部分の権利義務を移転)し、同時に残った基金は解散するという形をとっているケースもあります。

総合型基金に加入している事業所の対応

基金の対応方針に応じて、加入している事業所の対応にもいくつかの選択肢が考えられます。

基金が代行返上する場合や別途受け皿となるDBを設ける場合には、引き続きこれらの制度に加入することが可能になります。移行に係る手続きに関しては基金がとりまとめて行いますので、事業所としては比較的スムーズに新しい制度に移行することが可能です。

一方で、基金の設けた後継制度が事業所のニーズに合わないことから、これらの制度には加入せずに事業所単位で対応を行うケースもあります。また、基金が単純に解散する場合にも、それぞれの事業所で対応を検討する必要があります。

以下、事業所単位での対応事例について、いくつかご紹介します。

1.DCへの移行

既に実施しているDC(または新たに導入するDC)で解散による分配金を受け入れ、従来基金に拠出していた掛金を、今後はDCに拠出していくという対応です。

既にDCを実施している企業では、DC掛金の上乗せにより拠出限度額を超えてしまう可能性もありますが、一方で他にDBを設けていなければ、基金がなくなることによって拠出限度額が2倍になるため、掛金増額の余地ができることになります。

2.DBへの移行

既存のDB(または新たに導入するDB)で解散による分配金を受け入れ、基金に代わる給付の積み立てを行っていく対応です。主要な生命保険会社では、基金解散後の受け皿とすることを想定したシンプルなDBプランを提供しており、こうしたプランを採用して新たにDBを導入するケースもあります。

なお、総合型の基金やDBについては退職給付債務の算定対象外とすることが一般的ですが、事業所単位のDBへ移行した場合は退職給付債務の算定対象となり、移行に伴う損益が発生する可能性がある点に留意が必要です(次項「退職金で調整」においても同様)。

3.退職金で調整

基金に代わる新たな外部積立は行わず、退職金の増額で対応する方法です。なお、退職金規程において基金からの上乗せ給付を退職金の内枠としている場合には、退職金の総額を維持するために、基金からの給付の減少分を会社からの支払い等でカバーする必要が出てくることに留意が必要です。

また、解散による分配金をそのまま受け取ってしまうと一時所得となって税制上不利な扱いとなるため、分配金についてはDCやDBで受け入れ、将来分については退職金でカバーするなど、上記1.2.と組み合わせて対応するケースも見られます。


上記で紹介した方法のほか、中小企業退職金共済や、地域・業種を問わず加入できる既存の総合型DBなども移行先の選択肢として挙げられます。また、退職金や企業年金ではなく、給与や賞与の原資に回すという考え方もあるでしょう。

いずれにしても、基金の解散や代行返上が実施される際には、従業員に対する説明や同意取得の手続きが必要となりますので、事業所としては、財務面での負担や将来的なリスクを考慮しつつ、従業員のニーズに合致した対応を検討していくことが求められます。

掲載日:2016年3月7日

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