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マイナス金利下における割引率の設定について

1月29日に日銀がマイナス金利導入を決定したことを受けて、国債の利回りは一段と低下し、残存年数8年以下の国債利回りはマイナス圏で推移しています(財務省 国債金利情報より、2月9日基準日分まで)。2月9日には長期金利(10年国債利回り)が初めてマイナスをつけました。

このような前例のない状況下で、退職給付債務に用いる割引率の設定について、どう考えればよいか、まとめてみました。解説を見る→

IICパートナーズ コンサルタント 向井 洋平
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掲載日:2016年2月12日

解説

イールドカーブもマイナスに

割引率の算定のもととなるイールドカーブは、債券市場での取引価格データに基づき、モデルを用いて推定するのが一般的です。使用するモデルの違いなどによって結果は異なりますが、上記のとおり残存8年以下の国債についてはマイナス金利で取引されている状態となっていることから、国債のイールドカーブも一定年数以下の期間ではマイナスになることが想定されます。

なお、当社が算出している2016年1月末の国債イールドカーブでは、以下のとおり残存期間が7.5年以下の部分についてマイナスになっています(社債のイールドカーブについては、2016年1月末ではマイナスとなる期間は発生していません)。

マイナスの割引率はありうるのか

例えば、割引率の設定方法としてデュレーションアプローチを採用しており、退職給付債務のデュレーションが5年になったとすると、これに対応する2016年1月末の国債イールドカーブの利回り(スポットレート)はマイナスになります。これに対して、実際の割引率をどう設定するのかについては、以下の2つの方法が考えられます。

マイナスの利回りをそのまま割引率として使用する

デュレーション5年に対応する利回りが▲0.1%であれば、割引率も▲0.1%とする方法です。この場合、退職給付債務は退職給付見込額(期間帰属後の金額)よりも大きい金額となり、利息費用はマイナスになります。

退職給付に関する会計基準の適用指針第24項では割引率について次のように定めていることから、実際にマイナス金利で取引されている国債の利回りを基礎として決定した割引率がマイナスになること自体は、会計基準に沿ったものであるということができます。

退職給付債務等の計算における割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定するが、この安全性の高い債券の利回りには、期末における国債、政府機関債及び優良社債の利回りが含まれる。

利回りがマイナスの場合は割引率をゼロとする

対応するイールドカーブの利回りがマイナスとなった場合は、割引率をゼロとして計算する方法です。適用指針の定めに従えば、上記1のとおり割引率もマイナスとなりますが、そもそも「割引率」という名称からして、会計基準はマイナス金利を想定したものではないと考えられます。

例え国債がマイナス金利で取引されていても、将来の退職金・年金の給付と同額の現金を現時点で保有していれば不足が生じることはないので、その給付額以上の債務を認識する必要はないという考え方にも、一定の合理性はあると考えられます。

【2016年3月11日追記】2016年3月9日にASBJ(企業会計基準委員会)においてマイナス割引率に関する議論が行われ、2016年3月決算においては上記2つの方法のいずれも容認する取り扱いが示されました。詳細は「2016年3月決算におけるマイナス割引率の取り扱い」をご覧ください。

割引率は設定方法によっても異なる

上記では、割引率の設定方法としてデュレーションアプローチを採用している場合を例にとりましたが、退職給付債務のデュレーションが5年であったとしても、実際には「1年後の給付見込額が○○円、2年後の給付見込額が○○円、…」というように、給付支払までの期間は広い範囲に分布しています。計算対象が定年間近の社員しかいないというような特殊な状況でなければ、利回りがプラスとなる8年以降の期間にも給付が見込まれていると考えて差し支えないでしょう。

しかし、デュレーションアプローチの場合には、5年なら5年の一時点の利回りによって割引率を決定するため、給付支払までの期間が8年以降に分布していても、この期間のプラスの利回りは割引率に反映されません。

退職給付会計に関する数理実務ガイダンスでは、デュレーションアプローチについて、

この方法は、イールドカーブの形状を十分反映しないことに留意する

とされています。

イールドカーブの形状を反映する割引率の設定方法としては、イールドカーブ直接アプローチイールドカーブ等価アプローチがあります。デュレーションアプローチによる割引率がマイナスまたはゼロとなる場合でも、これらの方法を採用した場合には、給付支払までの期間に対応するすべての期間の利回りが反映されるため、割引率はプラスになる可能性があります。

割引率の設定方法は継続すべきか

割引率の設定方法の選択については、退職給付会計に関する数理実務ガイダンスにおいて次のように記載されています。

過去に採用したアプローチは、通常は継続的に使用するが、その合理性は環境の変化によって低下する可能性があるため必要に応じて見直しを検討する。

今回、5年以上の長い期間にわたってマイナス金利が生じたことにより、デュレーションアプローチの「イールドカーブの形状を十分反映しない」という性質が注目される可能性があります。これまでデュレーションアプローチ(加重平均期間アプローチを含む)を採用してきた企業においても、今後は設定方法を見直す余地があるものと考えられます。

掲載日:2016年2月12日

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