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企業年金による公的年金の「補完」 -2- 確定給付企業年金(DB)が担う役割

企業年金制度のあり方をめぐっては、厚生労働省の企業年金部会での議論をはじめ様々な議論がありますが、これらの共通の前提となっているのが、「公的年金の役割が縮小していく中で、公的年金を補完する企業年金制度の重要性が高まっていく」ということです。

企業年金による公的年金の補完を「公的年金開始までのつなぎ」とする考え方に、実際の確定給付企業年金(DB)の設計を当てはめた場合について考えていきます。解説を見る→

IICパートナーズ コンサルタント 向井 洋平
著者プロフィール
掲載日:2015年10月19日

解説

前回のコラムでは企業年金による公的年金の補完を「公的年金への上乗せ」ではなく、「公的年金開始までのつなぎ」と捉える考え方についてご紹介しました。

今回は、この考え方を実際の確定給付企業年金(DB)の設計に適用した場合について考えていきます。

DBの年金給付設計は企業により様々ですが、適年から移行したDBの多くは60歳開始の10年確定年金を設けています。また、厚生年金基金から代行返上により移行したDBでは、保証期間(例:15年)付の終身年金を実施しているケースもありますので、この2つの例をもとに考えてみたいと思います。

60歳開始10年確定年金の場合

まず、60歳開始10年確定年金を設けているケースですが、仮に定年退職の退職金水準を2000万円とし、その50%をDBから支給することとしている場合、年金原資は1000万円であり、年金支給の利息を年2%とすると、毎月の年金額は約9.2万円、10年間の総額は約1100万円となります。

この状況で公的年金の支給開始を65歳から70歳まで繰り下げるのは、60歳台後半の収入を十分に補えるだけの他の手段や蓄えがない限りは難しいでしょう。

一方で60歳台前半に関しては、高齢者雇用安定法の改正により希望すれば65歳までは働き続けることが可能であり、DB以外の退職金や自助努力も組み合わせることによって、DBの年金給付に頼らない資金計画を立てることもできるのではないでしょうか。

これらを勘案し、60歳開始の10年確定年金に代えて、65歳開始の5年確定年金という新しい選択肢を設けることが考えられます。60歳台前半の5年間は年2%で年金原資を据え置き、60歳台後半の5年間に年金支給を集中させることで、毎月の年金額は約19.4万円となり、公的年金と遜色ない水準となります。70歳以降は、公的年金の支給開始を繰り下げることによって42%の増額となるため、公的年金だけであっても一定の余裕を確保することが可能になります。

現状では、確定年金を設けている企業においては、年金に代えて一時金で受け取る割合が非常に高いケースが多く、社員は年金給付のメリットをあまり認識していないことがうかがえます。

高齢者雇用や公的年金の支給開始繰下げと組み合わせて企業年金給付の新たな選択肢を提示することにより、退職金の水準そのものは維持しつつ、社員にとってよりメリットを実感できる制度を提供できるのではないでしょうか。

保証期間付終身年金の場合

次に、保証期間付終身年金を実施しているケースですが、終身年金は社員にとっては大きなメリットである一方、企業にとっては負担の重い制度です。死亡率の低下により平均寿命が伸びて必要な給付額が増えるとともに、年金受給者が累積していくことによって債務は膨らんでいきます。

企業の負担を軽減しつつ、社員にとってのメリットも確保できるような仕組みは考えられないでしょうか。

先ほどの例と同様に年金原資を1000万円、年金支給の利息を年2%とすると、15年保証付終身年金の年金月額は6.4万円、15年間の総額は約1160万円となります。

終身年金ですので生きている限りは年金を受け取ることができます。60歳男子の平均余命である23年で計算すると、総額は約1780万円となり、1160万円を超える部分は元の年金原資に追加して企業が負担することとなります。

これを先ほどと同様に65歳からの5年間に集中させることにして、公的年金の支給開始は70歳に繰り下げます。企業年金については終身部分をカットする代わりに年金原資に対して5割上乗せした年金額とします。

65歳以降の年金に厚みが増し、一定の余裕が確保できますので、社員の立場からは60歳台前半に焦点をあてて資金計画を立てればよいことになります。企業年金と公的年金を合わせた受取総額で見ても、60歳時点の平均余命である83歳に達すると有利になります。

企業の立場から見ても、終身部分のカットにより、年金額を5割上乗せしても60歳時点の債務は若干減少します(割引率を1.5%とした場合)。また、70歳に到達した時点でその受給者に対する債務はゼロになりますので、長期的にみて年金受給者全体の債務を圧縮することができます。

以上のように、65歳までの雇用や公的年金の支給繰下げを勘案して、企業の負担を増やすことなく、社員が老後の資金計画をより立てやすくなるように、DBの年金給付設計を工夫していく余地は、まだまだあるのではないでしょうか。

DBの実施企業において、今後、退職金制度の見直しや高齢者の雇用・賃金制度等の見直しについて検討する際には、年金給付設計のあり方についても今一度考えてみてください。


掲載日:2015年10月19日

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